L:商業の民 = {
t:名称 = 商業の民(人)
t:要点 = 帽子、笑顔、もみて
t:周辺環境=市場
t:評価 = 体格3,筋力3,耐久力3,外見2,敏捷1,器用0,感覚0,知識0,幸運0
t:特殊 = {
*商業の民の人カテゴリ = 特別人アイドレスとして扱う。
*商業の民は、外見と幸運に+2修正を得る。
*商業の民は一般行為判定を伴うイベントに出るたびに食料2万tを消費する。
}
t:→次のアイドレス = 大規模商業施設(施設),商人(職業),重商政策(技術),商業大イベント(イベント)
(撮影:古島三つ実様・ぱんくす様 彩色:蓮田屋藤乃様)
『羅幻のにゃんにゃん棒』
(類語・ことわざ)天秤棒一本あれば行商をしてにゃんにゃんを稼ぎ財をなすという羅幻商人の勤勉さを表す言葉。 もしくは、それにあやかった商売のお守りとして商店の店先に掲げられる10フィートの棒の事。
――NWエンサイクロペディア第7版より――
一般的に商人と言うとへりくだったイメージがあるが、実際の現場では、物のわかっている人間同士の売買は云わば真剣勝負の様相が伺える。 そこには「売る者と買う者の心が通わなければ物は売れない」という商いの神髄が込められている様であった。
羅幻商人の特色として、用いるべきは才覚と算用だけでなく、巧妙な計算や企てを良しとせず、世の中の過不足を補い地場産業の育成や地域の活性化があってこそ商いが行えた部分がある。 よって、お互い様という観念や地域への貢献を疎かにする事は無く、不況には、国家事業への寄進、橋の架け替え工事や常夜灯の整備、学校建設への寄付、等々、数多く陰徳(売名の類ではなく、人知れず人の為になるような行為)、社会貢献があった。
「他国へ行商するもの総て我事のみと思はず、其の国一切の人を大切にして、私利を貪ること勿れ」
これは、陸路や海路を通じて、自らが誇りに思う技術力を分け隔てなく伝え、双方で商いを行う事例に由来する。 行商で成功するとその地域に出店し、新たな商売のため、大量輸送や荷物の保管場所の基地としても利用され、各地に出店している店同士で商品の回転を行い効率の良い運営に努めた。
経営方針としては短期間で大きな利益を得るような商いは良しとせず、長期的な商いを行うことを求めた。そのため、日々の努力と始末が欠かす事は無かったと言われる。
これを「売り手に良し、買い手に良し、世間に良し」の『三方良し』として、売り手と買い手の双方だけの合意ではなく、社会的に正当な商いや行商先での経済的貢献を求め、古くから企業の社会的責任を果たしてきた羅幻商人を象徴する言葉として伝えられる――。
――ここは、羅幻中央卸売市場、通称『らげもんいちば』。 その朝は早い。
黎明ですらない明け方の心地よい空気に活気の良い掛け声が混ざり始め【市場】は慌しく動き始める。
動乱の歴史、その只中にあっても羅幻国民、食い道楽の胃袋をあずかり、卸売と小売の機能を兼ねそなえた市場として親しまれ、NACの支援を受けつつも今日に至っている。
入荷した鮮魚や青果、そして生花の競りが始まるため、セリ場は独特の雰囲気に包まれていた。
ここ鮮魚の競り区域では、冷凍マグロがズラりと並び、仲卸業者たちは手鉤を使って、身の良し悪しを確かめている。
買参人である事を示す【帽子】にそれぞれの店舗固有のナンバープレートを付けた仲買人たちは卸売のセリ人から親しげな【笑顔】に情報を聞きだすも真剣に、しかし歩く速度を落とす事無く、品物が入った発泡スチロールやダンボールの山を歩き回り、品質を調べて行く。
なお、セリの形態は各地方で異なり、声を上げる上げゼリ、指の形が値段を示す符丁となる指ゼリなどが一般的ではあるが、ここ羅幻中央卸売市場は、セリ人と買参人がまるで【もみて】をするように握手を行い、その際に爪の立て方によって値段を示す符丁となる爪ゼリと呼ばれる比較的珍しい形態が存在する。
若干、運行速度に問題があるため大半が上げゼリで行われるものの、地元の猫妖精たちが得意とするセリの形態であり、価格帯が高価な珍しい品目に用いられる事がままある。
そのセリ場からは20メートルと離れていない仲卸の店舗は、いまだ開店の準備に追われている。
卸売市場に入荷した品物は、国家の認定を受けた卸売業者からセリに掛けられ、競り落とした仲卸業者が販売する。 仲卸の仕事は、セリに参加して競り落とし、店舗に運び、加工して、スーパーなど一般消費者向けの各量販店に販売するところまでである。
一応は、一般消費者は流通管理のために市場から直接購入は出来ないし、基本的には公衆衛生法の兼ね合いもあるため入場も暗黙の了解として、禁止されている。
(一般消費者からみれば、未だマージンが価格に含まれていないため安いのではあるが、バーゲンセールという戦場に慣れた古参兵たるオバちゃん方一個連隊が大挙して押し掛けられても困る話ではある)
また、鮮魚の区域よりも青果部署はいささか和やかである。
これは流通量の多さから言って卸売を行う人間の手が実質回らないため、競り売りよりも相対売りが主体となってしまっているからである。
実際の所、競り売りが未だに存在する理由は、市場は一漁師・一農家からの委託販売を基本的に断ってはならないという、漁師・農家の保護を目的として制定されている市場法によるものである。
つまり、大資本・大流通量を備えた経済連等、生産組合の品目は、流通管理と値崩れを防ぐための価格調整を念頭とした相対売り。 また、時価に幅がある嗜好品目や、出来に幅がある小手生産者の品目は、品目保護のための競り売りが主体となっている。
「…… あい! 今日は紅葉産キックバナナ秀Lイイの入ってるよー! その世界忍者産べマーラもNACから軍師殿のみたいなたゆんたゆんが入ってる! これで文句ならオマエら十歳同盟だっつーの! おぅ現金屋! 5c/s持ってけ。その3c/sは○猫屋の予約だから手ぇつけんじゃねーぞ!?」
なお、らげもんいちばの語源は、その昔手狭で移転する前は羅幻城城門前に市場が設置されていた事に由来する。
当時の市場の様相は、その時代にもまして活気がありました。 午前5時〜10時の間は白いカッポウ着の板前さん、午前11時〜午後3時までは一般の買物客、そして午後3時以降は料理屋など【ゆったりした服装】の玄人衆が客として賑わいをみせていました。
「夕暮れの中で、のら猫が手桶を漁っている。 人通りも無い静かな空気に鮮魚のにおいが漂う『らげもんいちば』の中を通り、路地に入れば醤油の臭いがした」
(当時の風俗学者による手記)
「【王宮】を仰ぐとそこはもう『いちば』で、【装飾品】を仕舞った【灰色の髪】の旦那さんが売り物の【ソファ】で【大きな団扇】を扇いでいました」
(共和国歳時記)
※注記
(卸売:行政の委託を受けて、生産者と仲卸の仲介を行い、価格調整と流通管理を行うこと。また、それを職業とする人。卸売業者)
(仲卸:売り手と買い手(卸売と問屋、問屋と小売商・量販店など)の間に立って、物品や権利の売買の仲介をおこない、営利をはかること。また、それを職業とする人。 仲買人)
(優・秀・良のカテゴリで品質を、2S・S・M・L・2L・3Lのカテゴリで大きさを示す)
(c/s:ケースの意)
(〜〜屋:屋号の事。歴史のある商店は昔からの屋号を持っており、それで呼ばれる事が多い)
(NAC:New world Agricultural Cooperatives(ニューワールド農業協同組合)の意。 主催は結城杏女史@ながみ藩国)
(モートラ:卸売市場で良く見かける伝動三輪運搬車の事。 「ターレ」とも呼ばれる。『モータートラック』ないしは『ターレット(旋回)式運搬車』の意)
そんな、商人たちの晴れ舞台に、もっとも厳密に言えば一般ピーポーでは無いものの、明らかに不慣れなおのぼりさんよろしき一行の姿があった。
迷路のように複雑な場内の通路を、狭い通路を直角に曲がる事が出来るモートラがエンジンごと前輪を回転させて走り回り、漢たちが忙しくすれ違う渋滞の中では、全員の姿を見失わないようにするだけで精いっぱいであった。 スーパーの魚売り場のようにじっくり見ているヒマなく。 一度はぐれたら確実に迷子が予想されていた。
「――うにゃーみんなありがとーにゃー」
「おぅ、姫ちゃん、これ喰って来な!」
「羅幻ちゃん、アンタのお父さんの若い頃ってカッコ良かったのよー! これカツブシ。頑張るんだよ?」
「おら! 姫さんのお通りじゃっつーの!!」
「サンマいいのあるよ持って来な! 今日は塩焼きさね」
「先王さまはのーーそれはー素晴らしいお方じゃっったー」
「――うにゃーみんなありがとーにゃー」
視察と式典に訪れた羅幻藩王とその従卒たちである。
この藩王、元々の生まれからか妙な王器・人徳がある。もっとも『じーちゃんばーちゃんメイン』であったのだが。
彼らは動乱の時代の以前に崩御した先王の加護を忘れてはおらず。そして彼らにとって羅幻藩王はいつまでも、その時のお姫ちゃんであった。
最近新たに入国した秋雨鐘鋳は、同時期に入国した兄猫mk2と共に、浪費癖の彼女の買い物に付き合わされた彼氏よろしく、うず高く積み上げた『お土産』をへろへろふらふらと抱え運んでいた。
「えーと、不敬、と言うにはちょっと違います、よね?」
いまだその風土に慣れない若者は戸惑いを隠せなかった。何と言うかこう、藩王相手に馴れ馴れしいと言う訳ではないが――
「うわははは、親しまれてると言うこっちゃな」
大族の長たるグレイ卿が豪快にうそぶく。
つまりそれは、時代と場所が変われども、何ら変わる事は無い人の営みであった。
――そして。さらに舞台は変わる。
閉じ込められた暗闇に光が差すと共に、凍り付いていた秒針が動き出す。
まるで、過去と不安を打ち払うかのように電灯は明かりを灯され、堅く閉じられていた扉からはたくさんの人が入室すると共に、封印されていた機材は解凍されていく。
「―― 各スタッフ。ファイルA−17を参照してスケジューリング通りに行って下さい。 四条文族長。 OS再インストールを開始して下さい。 リブート後、テトラチェック。 終わり次第、バックアップからデータ移送を行って下さい。 すでにわんだっく及びNACのシミュレートデータ。 そして事前偵察作戦の結果から現時点のオリオンアーム平均株価指数、為替状況が算出されています。 ドクター無畏。 財務マージは任せましたよ」
肉感的な女性の的確な差配にスーツ姿の人員と機材が動員されて、数字が電光掲示板の中で推し進められて行く。
「にゅいっす。 再インスト委細問題なく。 自分はもう少しツンデレでも良かったですが、極めて順調」
「くくくくく。 こんな事もあろうかと! こんな事もあろうかとぉ! バックアップと為替シミュレートは更新を続けていたのですYOoooo!!」
こんな事もあろうかとー! 一度言ってみたかったのじゃよ――と、ツンツン頭をした白衣のカタマリが、何やら感動に悶絶しながらゴロゴロと転がって行く。
(……まぁ、しばらくこの部屋は使ってなかったからモップ換わりになってイイかなぁ)
羅幻王国文族長、珍しくもスーツ姿の四条あやは幾つものウィンドウに表示され更新されるメニューバーやプロンプトを横目に見ながら思いを馳せた。
にゃんザーズ中央市場。
かつて、Tera領域の金融株式を支えた市場であり。いまこの場所は、にゃんザーズ崩壊と共に一度は放棄した、にゃんザーズ羅幻証券取引所:マーケットセンターである。
そう、にゃんザーズは崩壊した。 オリオンアームとの接続が切られ、地方市場だけでまわそうとしていたが、ISS崩壊による社会不安を期に崩壊した。
天災、戦争、極度の治安悪化等の非常事態に施行される【緊急国民保護法】の公布、
社会不安に伴う反政府活動に対応するために警官隊を組織。ヤガミの援護を受けての治安維持活動、
Newworld Agricultural Cooperatives(ニューワールド農業協同組合)略称NAC 設立による食糧流通、
そして、天領共和国軍艦隊の襲来に対しての、火星宙域迎撃奇襲作戦――あれは本当に激戦だった。 確かに400隻以上の宇宙空母を轟沈させた歴史的な大勝ではあったけれども、かの名高き友邦キノウツンのスカーフの人に率いられて、四条あやも聯合諸国の将兵と共に暗黒の宇宙を駆け抜けたのだった。
……そして、苦難の日を過ごして、絶望の時を越えて、市場はようやく、落ち着きを取り戻しつつある。
しかしながら共和国諸藩国は、いまだ、NACでの食料取引のみしか行う事が出来ず、中央市場や民間工場等の利用も出来ない状態にある。
それならば、また取り戻すだけの話である。
データ量を示すバーが伸び切って、インストールが終わりを告げる。
秩序は取り戻した。 安定も取り戻した。 信頼は取り戻しつつある。 ならば次は――。
甘い声が空間に響く。
「――総員傾注。『プロジェクトにゃっくす』発動。 共和国は今こそ新たなるにゃんザーズを構築する――」
next I_dress → return of nyanza-zu... to be continued...
(解説:蓮田屋藤乃様)