L:冒険商人 = {
t:名称 = 冒険商人(職業)
t:要点 = 奥地、犬ぞり、旅商人
t:周辺環境 = 北国
■:冒険商人のインデックス
(イラスト:ぱんくす。クリックすると大き目のイラストになります)
「オーッホッホッホッホッ!」
――国境の長いリンクゲートを抜けると【北国】であった。いや、本当は世界忍者国の藩国リフトで4−Aエリア経由で3−Aエリアに降りたんですけどね。
そんな古典的文学小説な表現もかくや、どこぞの文筆家の端くれならぬアイドルの端くれ。もとい、冒険商人の端くれお嬢様こと、リリィフェル・マイルフィックは世界忍者国内・人狼領地の【奥地】を【犬ぞり】で疾走していた。おひさしぶりです、お嬢様。
元々、ソリも犬もここ、世界忍者国政庁の紹介によるレンタルなので品質が高く頭が良い。パイロット要らずで柔軟に走る訓練された犬たちは、コパイさながら誘導するお嬢様に従って、さしたる問題も無く行程を進んでいる。
しかし普通、商人といえば、招き【猫】を据えた自分の【お店】で【前掛け】を掛けて【もみ手】をしながら【笑顔】で接客している様を連想するが、彼女は『アイドル(自分自身)と自社商品(あぶない水着)の営業と、稀少品(その時々による)の買い付け』を同時に行う【旅商人】として【意外にでかい】営業範囲をフィールドとしていた。場末のドサ回り芸人かお前は。
「オーッホッホッホッホッ!」
――(無駄な)高笑いが雪原に響く。
その高笑いには特に意味は無い。きっと、ただ単に叫びたかった【だけ】であろう。
もっとも、高温の羅幻在住の人間には体感温度が【世界の終わり】の様に寒すぎて【開き直り】してるのかもしれないが。
確かに、現在の服装はいつもの『あぶない水着』ではなく、ぶ厚い毛皮のコート【っぽいなにか】を着込み、更には金髪縦ロールの奥に【ヘッドセット】を装備して耳を保護していた。アイドルは音感が大事だからね!
……え? いやいや、誤解をしないで頂きたい。
一般的な冒険商人とは、多言語を使いこなし、交渉能力に優れ、自ら【輸送】機を駆って現場に出向き(流石にパイロットは専門の業者に頼むが、経費削減のためコパイぐらいは気合いでこなす)、流通売買を通して藩国の価値と文化を発信するという、国にとっても極めて優秀な人材であり、いわば移動する羅幻王国アンテナショップとも言えよう。
それにも関わらず、こんなトンデモお嬢という特殊な人間を引き合いに出すのは『――あぁ、一番これが冒険商人の中でも偏った個性なんですよー。これ以上アレなのは無いんですよー』という、最低限のガイドラインを事前に引いて爆発対策をしてしまおうという、筆者のこすっからい戦術である。決して騙されてはいけなませんよー。この人は果ての極みでーす。
「――へっくちょ! ……なにやら失礼な噂の気配がしますわね」
地の文章に反応しないで頂きたい。
ちなみにメタな事を言い出せば彼女の着用アイドレスは『輸送の民+冒険商人+アイドル+会社社長+護民官2』である。いや、カオスというかむしろ護民官て何。
いくら外見は美人とは言え、こんな残念娘がアイドルで護民官とはまるで【この世の終わり】の様じゃなかろうか。キミプロ事務所に向けて謝れ。
「――ところでお嬢様、ぶっちゃけ詳しい内容は聞かずに付いて来ましたけど、今回はどのような商材を目的にしていらっしゃるのでしょうか」
慣れない寒冷地にも付いてきた忠臣者の元プロデューサー現番頭(以下、便宜的にPと称す)に、地図と商品カタログを収めた【バインダー】を渡すお嬢。
「新製品のお酒ですわね。特産のベマーラを使った、新作ベマーラウイスキーが完成したそうよ。今回はそれを含めた各種商材の現物確認と醸造所見学、そして、個人的な味見」
「あぁなるほど、綺麗な水のある寒い所は酒が美味いと言いますからね。個人的にはハイコークが好みですな。元軍人としては世界忍者国特産のミリタリーグッズも興味があります」
(酒道楽だったのかお嬢様とP。筆者と気が合うな)
――さながら灯台のように目印の藩国名物、巨大ロイ像(USAビキニ着用)が見えた。そろそろ雪道を抜ける事だろう――
(なお、いつものダンディな汗血馬は寒冷地と聞いて逃げた。逃げましたよ流石に。『急げ馬よ(技術)』を使わないのはそのせいである。きっと暖かい場所に戻れば図々しくその馬面を出すだろう――)
冒険商人! 冒険で商人! 何と心引かれる響きだろうか!!
その敬称は、かつて世界各地の難地・秘境、熱砂から密林、氷雪の地に至るまで渡り歩き、手に入れた珍品貴重な品々を売り、あるいは、材料として唯一無二の商品を創作などして荒稼ぎをする凄腕の商人たちの事である。
古くは勇者と共に戦った太っちょヒゲの武器商人から、大嵐の海をタマハガネ級で切り抜けて、柑橘の貿易で名を馳せた伝説の廻船問屋に至るまで、彼ら冒険商人数多の名声は様々な偉業を残して久しい。
特に輸送と商業の民である羅幻王国の商人たち、彼らの貿易船を相棒として大海原を駆ける姿は浪漫的ですらあるだろう。
「つい『ウッカリ』世界一周してしまった」
現在に至り、そのように軽口を叩いて実績を残す豪傑は伝説の時代から大航海時代を経た今はもはや数も多く、女性の進出も著しい。
彼ら彼女らの、数多の冒険を交易路として平然とくぐり抜ける高いサバイバリティに加え豊富な知識と経験、そして、困難を友として障害を糧とする逞しい商魂は、『受付(技術)』とも言える人の動員もかくや、地に足のついたグローバルな経済感覚として昇華され、同業者達の間ではまさに生ける伝説と化している。
この高度情報社会として発達した今日において、その商才は取引や投資システムが多様・高度化すると共に経済学にも長じ、その時流を読む事は経済の専門家にも匹敵していた。
特に、実践的なマーケティング。という意味においては一般的な商人とは発想が一段超えたものと言える。
――一例を挙げよう。
例えば、2人の靴のセールスマンが『靴を履く習慣の無い土地』を調査した結果、片方は「靴を履く習慣が無いから売れない」という判断をしたとしよう。しかし、羅幻王国の【冒険商人】はここで「まだ誰も靴を履いていないから売れる」と、『無限のフロンティア』が広がっていると認識するのである。
そこに至る分析能力とは、組織や個人の内外の市場環境を把握し、目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人のプロジェクトやベンチャービジネスなどにおける、
強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)を評価する事である。
『強みと弱み』は目標への影響による『内的要因』であり、『機会と脅威』は『外的要因』とも言える。
a:どのように強みを活かすか?
b:どのように弱みを克服するか?
c:どのように機会を利用するか?
d:どのように脅威を取り除く、または脅威から身を守るか?
その見識と判断力によって『ヒトとモノとカネ』の動きを決する様は正に、機を見るに敏という事なのであろう。
羅幻王国の冒険商人は、特に共和の精神と契約を重んじ、交渉者がともに利得を享受出来る『Win-Winの関係』を組み立てようとするのである。
○主な『内的要因』
・資源(財務・知的財産・立地)・クオリティ・サービス・インフラ・デザイン・ブランド・効率性・輸送時間・経営管理・企業倫理・市場知名度・地域言語の知識など。
○主な『外的要因』
・マクロ経済・社会環境・経済状況・技術革新・法令の変化・市場のトレンドなど
○マーケティングの4P
・Product(製品):クオリティ・サービス・デザイン・ブランド、等
・Price(価格):価格・割引・支払条件・信用、等
・Place(流通):インフラ・輸送時間・流通範囲・立地・品揃え・在庫、等
・Promotion(販売促進):広告宣伝・市場知名度・プロモーション・ダイレクトマーケティング、等
○分析項目の連携(マーケティングミックス)
・Product(製品)⇔Consumer(消費者のニーズ)あるいはCustomer solution(顧客ソリューション)
・Price(価格)⇔Customer cost(顧客コスト)
・Place(流通)⇔Convenience(利便性)
・Promotion(プロモーション)⇔Communication(コミュニケーション)
「ここなら水着が売れるんじゃないかしら、と」
「お前さんひょっとしてバカなんじゃないかな」
お嬢様が『まあまて落ち着け(技術)』を持っていないのが丸分かり。醸造所のある村の村長さんによる冷静なツッコミであった。
そりゃまぁ確かに、寒冷地で水着を所持している人間は少ないであろう。
もしかしてひょっとすると、無限のフロンティアが広がっているかもしれない。
……需要があれば、だが。
醸造所のあった村は山越えの奥地で人の出入りも少ない為、行商は特に喜ばれた。商品の買い付けはともかく、問題は売り物の大半が水着だった事だろう。売れる訳ねぇだろ。そして冒頭に戻る。
「まあまて落ち着け。ワシも興味が無い訳ではない。むしろ村の若いオナゴが大胆な水着を着てくれるなら、そんなに嬉しい事はない。だが、海など無いこの地でどうやって――!」
「なんて事でしょう! ワタクシの作ったブリリアントな水着を着れないだなんて! でも、海が無ければ温泉とか掘ればイイジャナイ――!」
「天才、優勝、オリンピック! そう言えば有望そうな温泉脈が村の近くにあるのじゃが、厚い岩盤に阻まれておる! 残念無念恐悦至極! 水着のオナゴPlz――!」
「そういう事でしたら、採掘の専門家を手配すればよろしいのですわ――!?」
残念ながらこの場にはダメ人間しか居なかった。
血の涙を流さんばかりに難しい顔をして「オナゴ水着オナゴ水着スクール水着」と、テンション高く頷き、嘆き合い、語り合う声に、近くに停めていた犬たちも、まるで呆れた顔を見あわせて「どーしたもんかねー」と頭を抱えているかの様に見える――
――実践的なマーケティング。
本当はお嬢様、『有望そうな温泉脈』という情報自体もリサーチ済である。
バカだバカだと思っていたお嬢様だが、知能的な意味では悪くは無い。むしろアレは恥脳に問題がある残念美人なのであった。
真っ当な商取引による買い付けをしつつ義理を売ってプロデュースする気満々であった。つまり、寒冷地の水着は余禄である。ホントだよ? ……ホントだってば。むしろ、通訳ナシで漫才が出来るお嬢様の語学力がすごいんだよ?
マーケティングの評価分析とすれば、
a:どのように強みを活かすか? → 少数人員による機動力を生かす。
b:どのように弱みを克服するか? → 早期のマーケティングにより専売契約を結ぶ。
c:・どのように機会を利用するか? → 確かな語学力による交渉と共に人間関係を構築する。
といった王道な戦術を以って、交渉者がともに利得を享受出来る『Win-Winの関係』を組み立てようとする、羅幻王国の冒険商人として正統な商売であった。
……それでは最後の1つ、
d:どのように脅威を取り除くか? → 相互に有効人員を供出する事により外部侵攻を排除する。に、ついては……。
「――はいはいお嬢様」
流石に付き合いが長い。『フリ』に気が付いたPに、すげなく高速振動仕様の工兵シャベルを渡すお嬢。
そして、実は【工兵長】上がりの経歴を持っていたP。【塹壕】掘りの経験もかくや、防寒着換わりの寒冷地仕様【野戦服】(羅幻王国陸軍はこの辺『兵站の専門らしく(笑)』環境別装備にも余念が無い)を正して、鉱泉脈掘りの準備を始めた――。
この数ヶ月後、新作ベマーラウイスキーはお嬢様により共和国全域へプロデュースされて大反響を呼ぶ事となる。
しかし、村長さんとPは知らない。
この数時間後、温泉は無事湧き出したモノの、お嬢様が持って来た水着が『あぶない紐水着』しかなかった為、村の女性陣にフルボッコされる未来を。
(テキスト:蓮田屋藤乃・四方無畏)(スペシャルサンクス:結城由羅・世界忍者国)
(テキスト:蓮田屋藤乃・四方無畏。イラスト:ぱんくす。スペシャルサンクス:結城由羅・世界忍者国)
t:名称 = 輸送の民(人)
t:要点 = 輸送,だけ,開き直り
t:周辺環境 = この世の終わり
t:名称 = らげん猫(種族)
t:要点 = 猫,っぽいなにか,意外にでかい
t:周辺環境 = 世界の終わり
t:名称 = 工兵長(職業)
t:要点 = 野戦服,ヘッドセット,バインダー
t:周辺環境 = 塹壕
t:名称 = 商人(職業)
t:要点 = 前掛け,もみ手,笑顔
t:周辺環境 = お店
t:名称 = 冒険商人(職業)
t:要点 = 奥地、犬ぞり、旅商人
t:周辺環境 = 北国
「ところで『筋肉』とか『男の娘』に似合う、あぶない水着が村の女性陣から要望だそうで」
「流石にそんな水着の発想はありませんでしたので、今後検討致しますわ」