L:商人 = {
t:名称 = 商人(職業)
t:要点 = 前掛け、もみ手、笑顔
t:周辺環境=お店
t:評価 = 体格2,筋力2,耐久力3,外見5,敏捷2,器用3,感覚6,知識4,幸運4
t:特殊 = {
*商人の職業カテゴリ = 派生職業アイドレスとして扱う。
*商人は目利き行為を行うことが出来、この時+4の修正を得る。
*商人は商談行為を行うことが出来、この時+4の修正を得る。
*商人は着用者一人頭、一国で10人まで、好景気時に+3億、安定時に+2 億、普通時に+1億、弱い政情不安で−1億、政情不安で−2億、強い政情不安で−3億の資金を得る。
}
t:→次のアイドレス = 大商人(職業),冒険商人(職業),産業作り(イベント),交易ルートの開拓(イベント)
}
「う……ん」
目を覚した私は、未だにはっきりとしない頭を掻きつつ、軽く伸びをする。ちらりと窓の外に目をやると、ちょうど日の出の刻限なのだろう。うっすらと明るくなり出しているところだった。正直、まだまだ寝たりないが、二度寝をすると確実に開店時間に寝過ごしてしまう。安物だが、ふかふかのベッドに未練を覚えながら起床する。
今日の店の準備を始めるとしよう。身体を動かしている間に、眠気は徐々に薄らぐはずだ。
倉庫に行き、今日棚に並べる商品を見繕う。小さい倉庫だ。入り口にいるだけで、だいたいは見渡せる程度だ。所狭しと一見無秩序に物が並んでいて、まるで【塹壕】の底の様だ。その全てを一人で管理できるのも、一重にその小ささのお陰である。
「ふん」
全く嬉しくはないが。希望としては、もう少し大きな蔵を、あと三つほど庭に並べてみたい。しかし、現在のところ、それは夢のまた夢だった。
私の店で取り扱っているのは、基本的に日用品だ。取り敢えず、大抵の日用品は取りそろえている。だが、それだけでは稼ぎなど知れたものだ。このままだと、蔵を新しく建てるなど、いつになるやら分からない。なので、最近はこれまで商った事のない物を仕入れたりしている。
服や機械、工具、本など。変わったところでは工兵用の【塹壕】を掘る為のスコップ・【野戦服】・【ヘッドセット】・【バインダー】、灯油やガソリンなどの燃料も仕入れている。どの商品も、一応自分なりに客層を研究して仕入れているので、それなりに利益は出してくれている。とはいえ、まだまだささやかなものだ。ここらで一発、どかんとデカい商売をしてみたいと思って色々と勉強はしているが――果たしてどうなるか。
取り敢えず、私はこんな場末の商売人で終わるつもりはない。私が一年かけて稼ぎ出す金額を、たった一日で動かしてしまうような商人だっている。中には、軍隊に兵糧や消耗品を納入し、莫大な利益を上げている者もいる。おまけに、そういう連中は、自分の部屋を一歩も出ずに、ただ命令を下して書類にサインをするだけで大金を稼ぐというのだから、全くねたましい限りである。
そういえば以前、王国摂政が全国に先駆けて【◆不正競争防止法】や【◆社会責任企業規範七原則】などといった政策を発布していたが、あんなものは商売人にとって手習いに教わる事であって、殊更明記する程でも無いかと思っていたのだが、最近、ひょっとしたらあれは摂政なりの回りくどい減税助成ではないかとも考えるようになって来た。
「はあ」
まあ、空を見上げていても金貨が降ってくるわけでもない。私は、倉庫から手早く商品を袋に詰めると、棚に並べるために自分の店へと急いだ。
棚に商品を並べ、床の埃がないように掃除をして、【前掛け】を身につければ開店である。きっかり九時。毎日同じ時間である。
開店すると、早速何人か店に入ってきた。常連客である。大抵、朝飯としてパンや菓子を買っていく人達であり、こちらとしてもお客様というよりは話し相手という感覚が強い。最低限の礼儀こそ忘れないが、今日の天気やら仕事の愚痴やらの雑談に花を咲かせる。
楽しい時間ではあるが、気は抜けない。ふとした相手の呟きから、次の商売のネタが出てくるかもしれないからだ。相手が必要としている物を取りそろえるのが商人である以上、相手の不満に思っている事を分析して解決方法を見つければ、それは利益へと直結する。それは、どんな仕事でも変わらない基本原則だろうが、民衆の生活に密着する商人達は、ことさら人の口から出た話を重視する。
最も、残念というべきか、今日は特に目新しい話は聞けなかった。やれ、隣の婆さんがぎっくり腰になっただの、洗濯物が雨に濡れて困っただの、他愛のない話ばかりだ。一瞬、薬を仕入れたり洗濯屋を開いたりすればどうかとも思ったが、薬を仕入れるのは国の許可がいるし、洗濯屋は案外体力を使う上に設備投資にも金がかかるから、そうそう手が出せる物ではない。
まあ、時たま人の不幸が飛び出してくる時もあるので、それがなかったのは幸いとでも思っておこう。
さて、朝の慌ただしさが過ぎ去ると、少しだけのんびりとした時間帯になる。この時間が、つかの間の休息と言えるだろう。手早く飯をかき込み、お茶を飲み、のんびりと本を読む。一時の安らぎだ。ずっと続けばと思わないでもないが、本当にこの時間が続いてしまうという事は、つまり客がいなくなっている訳だ。そう考えると、あまり嬉しくない。
と、そんな事を思ったかどうかは分からないが、【猫耳】と【尻尾】を揺らしてお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
私は本をカウンターに置くと、お決まりの文句を口にした。入ってきたのは、この辺では見ない顔だ。着ている服も、普段着というよりは旅装束に近い。かなり遠くから来た人らしい。
……これは気合いを入れないといけないかもしれないな。初対面のお客様との対面は、いつも緊張の連続だ。特に、旅人とは。上手く対応すれば常連になってくれるかもしれないが、下手を打つと悪い噂が広がる可能性もある。行商人なら遠くに逃げれば、今までの伝手を全部失うとはいえ商売を続ける事も不可能ではないだろうが、土地と共に生きていく店持ち商人にとって悪い噂は致命的だ。
「何か、ご入り用でしょうか?」
私は【笑顔】を浮かべる。鏡を見ずとも自分に出来る最高の笑顔だと確信できる。そして、もみ手をしながら旅人に近づく。
【もみ手】をするのは、やや卑屈かなと思わないでもないが、よそに行くと商売という行為そのものが卑しいものと考えられている地域だってある。出来る限り、友好的な態度をとる必要がある。それに、笑顔の仕方によっては、もみ手をむしろ可愛らしく見せる事も可能だ。
「ああ、少しばかり――」
お客が所望したのは、いずれもこの店にある物だった。お客様の言葉からも、こちらに対する敵意は見えない。取り敢えず、ほっと一安心。
私は、商品を手早くまとめてお客様に手渡す。同時に、料金を受け取る。これで、完了。この旅人――かどうかも分からないが、彼がこの店に来る事は、もう無いかも知れない。
そう思うと、何となく感慨深くなる。そんなとき、旅人が言った。
「綺麗な店ですな」
それだけ言うと、旅人は店を後にした。その後ろ姿を見て、何となく私は自分の口元が緩むのを感じた。
だけど、まだまだだ。いずれは、全ての人間に店を褒められるような大商人になってやる。私はそう思いながら、今日も【お店】のカウンターに立っている。
――藩国の商業地域の一角にかつて停止し、そして復興した、にゃんザーズ羅幻証券取引所:マーケットセンター。その(防諜システムを組み込まれた)会議室に一団の老若男女――藩国内にてさまざまな業種・影響力を持つ情報経済のスペシャリスト――が集められている。筆頭は王国摂政:蓮田屋藤乃。藩国通商産業省情報局:通称【ビヤーキー機関】と言われている。
「――セプテントリオンの市場介入により、大きな打撃を受けた投資家に手を差し伸べてくださいな。もっとも先の【◆大統領府による『セプテントリオンの脅威について』】大統領府から布告があったのですからある種自己責任に近い状況ではありますが、被害を受けたという認識に間違いはありません。庇護の手を差し伸べる事が肝要でしょう――」
異議なし、異議なし! 異議なし!! と声が重なる。
そう、商売は信義をモットーとする正統な商売をを旨とする羅幻商人たちには、セプテントリオンの横暴なやり方・市場介入には商売人としての心意気として許せぬものでありその活動を名誉とした。何故ならば、死を売る商人がいるならば、生命と平和、夢と希望を売る商人がいる事もまた彼らの意地により証明しなくてはならないのだから――。
◆藩国通商産業省情報局:通称【ビヤーキー機関】
藩国摂政直轄機関として、ヒト・モノ・カネの流れを把握することで、情報の収集・相場の事前予測や、セプテントリオンをはじめとするテロ組織への資金流入の事前対処を行い、国内企業・事業者たちの保護に関する市場混乱の未然防止と、藩国警察・ISS・大統領府への情報提供を行いカウンターテロの一翼を狙う目的とされている。
参考資料
※『ヒト・モノ・カネ』の情報捜査方法
ヒト:税関出入国管理の履歴閲覧協力
モノ:初恋運輸の物流履歴の開示協力
カネ:個人&企業資金口座の関連付け・口座履歴の閲覧協力
※人員採用項目規定
1:犯罪歴・経歴・思想等人格審査プロファイルの確認と、藩国摂政と一対一の事前面接による確認。
2:文殊上に存在する国民番号を持った羅幻王国国民であり、定期的にISSの査察を受ける事に同意する事。
3:新規人員参入は公募・自薦は無く、現機関員による他薦・引き抜きのみである事。
4:各部門で働くにおいて必要な能力を保有している事
具体的な運営方針は、各国・各関係所の協力を得ることで、ヒト・モノ・カネそれぞれの情報を、収集、統合、分析。
不自然な取引、不自然な資金変動等を常時把握、必要があれば内偵を行い、関係各所へ監視対象の通達と捜査協力を要請する。