王立図書館5F

イベントなどで提出するSS等の文章類を掲示しております。

源様作『羅幻王国のとある国民の休日』

 近頃、戦続きで若干慌しくある羅幻王国内。慌しいながらも、今日は国民の休日ともあり、オフを満喫する人々の姿が街中では多く見かけられる。その中の一人に、つい先日入国したばかりのごまるの姿があった。

 

「……出汁がちょっと薄いかなぁ。でも、このお揚げはグーだねぇ」

 

 昼時、賑わううどん屋のカウンターで、彼女は一人ちゅるちゅるとうどんを啜りながら手持ちのメモ帳を開き、そこにチェックを入れていた。自他共に認めるうどん好きのごまるは、毎日のうどん屋巡りに余念がない。

 

「あー、せっかくなんだし、ヴィスちゃんでも誘えば良かったかなぁー」

 

 どんぶりの中身を半分程残しつつ、一旦箸を置いた彼女は、手元のグラスをぐっと煽った。入国してからというもの、何だかうどん屋巡りばかりしているような気がするが、いつもの事なので問題は無い。そして、そんな中で仲良くなった人間の一人が、ごまるより先立って入国していたヴィスだった。

 出会いについては割愛しておく。述べるまでもない内容であるのは明白であろう。

 

「へい、らっしゃい!」

 

 がらがらっと小気味のいい音を立てて店の扉が開かれた。カウンター内の店主は低いが良く通る声で来客に向けて言葉を投げた。入ってきたのは二人組だ。

 

「いや、いいって、ボクお腹空いてないからさぁ」

「ダメです。そんな事言って貴女この二日何も食べてないでしょう? おうどんは荒れた胃に優しい食べ物なんですから。ほらぁ……」

「ほんと減ってないんだってばー」

 

 やいのやいの言いながら来店してきた二人、酔いどれパイロットとして妙な風評の広まっている源と、だらしのない生活を送る彼女を見かねて外に連れ出した、源とは色々な意味で対照的な女性、大川倖だった。

 カウンターから振り返ったごまるは、その二人を見るやいなや、小さな手をぶんぶんと振って彼女達に声をかけた。

 

「おーい、こっち空いてるよー」

「あ、ごまるちゃんじゃん」

「あら、いらしてたんですね、彼女」

 

 声をかけられた二人は、一時口論を止め、大人しくごまるの脇のカウンター席に腰掛けた。

 

「ゆっきーはともかく、みなもっちゃんをこんな所で見るのって珍しいんだなぁー」

 

 残ったうどんをやっつけながら、ごまるは座った二人の顔を見て言う。彼女の言う通り、源を昼間に飯処で見かける事はほぼ無いと言っていい。見かけるとしたら夜の飲み屋くらいの物だろう。

 

「源さんったら、放って置いたら何日でもお酒と煙草だけで過ごすんですから。危なっかしくって」

「はっはっは。ゆっきーはエライなぁ」

「死なない程度には食べてるんだけどねぇ」

「死なない程度って何ですか! 健康的に毎日三食食べましょう! 例えば……ええと、そう! ヴィスさんとか見習って下さいよ!」

「えー」

「ゆっきー……あれはちょっと無理だと思うよ? 普通の女の子にはさ」

「あ……」

 

 ヴィスの食の鉄人ぶりは、羅幻王国では割と有名になりつつある話である。不摂生な人間が多い中、彼女が放った言葉に胸を打たれた者も少なくない。その言葉とは……。

 『喰い改めよ』

 ある種の威厳すら感じられる一言であった。ちなみにこれは余談だが、女性でありながらヴィスはグレイや羅須侘とタメを張る胃袋の持ち主であったりする。

 

「と、とにかく。おじさん、私はざるうどんをお願いします」

 

 こほんと一つ咳払いをした倖は、気を取り直すようにして店主に注文をした。そして、隣に座る源のわき腹を肘で軽く小突く。さっさと注文しろという事だろう。

 

「んー、じゃぁ、おっちゃん。ボクはビールとかけうどん」

「って、源さんっ! 何昼間から頼んでるんですか!」

「ビールなんてアルコールの内入らないから大丈夫だって」

「もう〜!」

「あっはっは」

 

 源と倖のやり取りに笑いをこぼすごまる。気づけば既にどんぶりの中身は汁だけになっていた。

 さてどうした物かと思案している間に、横の二人の目の前には注文の品が置かれている。何とも速い仕事であるものだ。

 

「ごまるちゃんもう食べ終わってんだ」

「二人が来る前にはもう半分以上食べてたしー。っと、これからどうしようかなぁ」

 

 早速ビールの栓を抜いてグラスに注ぎつつ言う源に対し、ごまるは店の天井を仰いで答えた。

 

「これからの予定は決めてないんですか?」

「何かあった気がするんだけど……」

 

 何も考えずにぽややんと気が向くまま、このうどん屋を訪れていたごまるだったが、倖に言われてみて、何か重大な事を忘れているのではないか、という気がして来ていた。

 

「はて?」

 

 首を傾げて見たものの、ぼんやりとしたイメージしか浮かんでこない。とりあえず残ったうどんの汁を飲み干して、箸を置いた時だった。

 

「い、いたっ!」

「「?」」

 

 凄まじい音を立てて開かれた入り口の扉。そしてそこに現れた人物は、ごまるを見るやいなや扉の音に負けぬ大音声を上げた。

 

「あれ? 兄者どしたのかな?」

「どうしたもこうしたもありませんよ!」

 

 ごまるの言う兄者―-羅幻王国宰相ルクスは、肩で息をしながら呆気に取られる他の客をよそに、ごまるの方へとずかずかと遠慮の無い足取りで向かってくる。

 何とも驚きな事実なのだが、ごまるはルクスの妹という事らしい。戸籍関連での明確な証拠があるわけではないが、本人同士がそう認識している時点で間違いの無い事なのであろう。これを知った時の皆の驚き様と言ったら凄いものがあった。

 

「貴女今日が何の日か忘れてませんか!? 妹者!」

「ほえ?」

「「…………」」

 

 珍しく声を荒げるルクスに、ごまるは素っ頓狂な声を上げ、源と倖は目を瞬かせた。

 

「……今日のルクスさん凄いね、何か」

「……いつもは物腰柔らかいですもんねぇ、あの人」

 

 ぼそぼそと脇でやり取りする二人の声に、ルクスは気づかない。ある種鬼気迫る表情でごまるの肩に手を置き、溜息を一つ吐いてから口を開いた。

 

「今日は国民の休日ですよねぇ?」

「うん」

「イベントがありましたよねぇ?」

「え、何それ? 兄者」

 

 さり気なく源からビールを注いでもらいつつ、ごまるは聞き返した。その時、ルクスのこめかみに小さく青筋が浮かんだのを、倖と源は見逃していなかった。

 

「何飲もうとしてんですかッ! そんな事してる場合じゃないんですよ!?」

 

 身内ならではの遠慮の無さだろうか? 普段のルクスならまず見せない様な態度で、彼はグラスの中身を啜ろうとしたごまるの耳をぐい、と引っ張った。

 

「あ痛! 痛いってば兄者! 取れるっ! 耳取れるって!」

「いいから来なさい! ほら駆け足! あ、店主。そこの二人の分も含めて勘定はこれで」

「ありがとうございましたー」

「「…………」」

 

 まるで台風一過とでも言うべきか。全員分の勘定を置いてからごまるを連れて出て行くルクスの背を眺めながら、倖と源はポカンとした表情で固まるばかりであった。

 

「何だったんだろね、ありゃ」

「わ、私に聞かれても……」

 

     ※

 

 今日も今日とて、国民の休日とはいえ忙しない動きを見せているグレイ。溜まりに溜まった事務処理も一段落し、彼は人より一時間程遅れた昼休みを迎えていた。

 

「最近は仕事が多くて、まともな休日が取れなくて困るよ」

「いつもながら大変そうですねぇ……あ、お代わりはたくさんあるんで、どんどん食べてくださいね?」

「了解した。私に任せてくれ」

「……って、おい。何でお前もいるんだ」

「?」

 

 視察がてらに訪れた養鶏所の事務所にて、ささみから昼食の誘いを受けたグレイ。言われるがままに近場にある食堂まで出向いて、ささみ謹製の羅幻コーチンを用いた料理に舌鼓を打っていたわけだが、何故か同時に居合わせたヴィスの姿に、彼はささやかな突っ込みを入れた。

 

「……ささみさん、もうちょっと濃い味付けでも良いかも知れない」

「俺の突っ込みは無視か、ヴィスよ。ちなみにこれ以上濃くしたら鶏の味がぼやけるだろう」

「ふむ、そういう物ですか」

「あっ、てめっ、俺の照り焼き返せ!」

「食卓は戦場故、油断される貴方が悪い」

「何を言うかこのっ」

「…………」

 

 ささみ自身、いつの間にやら現れたヴィスの存在に対し、思い切り突っ込みたかったのではあるが、何故かやいのやいの言いながらも楽しげに食事をしているグレイの姿を見て、何も言えなくなっていた。

 ぶっちゃけ、思考回路の段階がずれているだけなのだが。

 

「……って、何だろ、この状況」

「命短し恋せよ乙女、ってか」

 

 気配を殺してささみの背後に近寄っていた人物、蒼凪羅須侘は、立ち尽くすささみの肩にポンと手を乗せて呟いた。

 

「…………」

「どうしたい、ささみちゃんよう。何か言いたそうだが?」

「いえ、もう何があっても驚きませんけど、一体いつの間に?」

「野暮ったい事言うなよ。俺も御相伴に預からせてもらいたくってな」

「……はぁ。追加分の料理を作ってきますね、私」

「ありがてぇっ。ほらほらー、グレイ殿にヴィス殿やーい、ちょっとスペース空けろってー」

「む……新たな敵」

「旦那まで……うかうかしてられないな」

「…………」

 

 大して疲れてもいないのに、疲労感ばっちりの溜息を吐くささみ。何気なく調理の合間の暇つぶしにと、食堂に備え付けてあるテレビのスイッチを入れてみた。

 ぶぅんと鈍い音を立ててテレビに光が点る。それと同時に、スピーカーからは大きな歓声とアナウンサーの大きな声が流れてきた。

 

「「?」」

 

 食堂にいた全員が、テレビの方へと向き直る。

 

「そう言えば……」

 

 箸で唐揚げをつまみながら、ぼそりと呟くヴィス。

 

「今日は国営放送で特別番組が、あったか」

「あー、そういやそうだったっけな」

 

 追従するように、羅須侘とグレイが空中で料理の取り合いをしながら言う。

 

『M*1開催でーーす』

 

 ブラウン管の中では、特注のにゃうんどがーるの衣装に身を纏ったごまるが、声高らかにイベントの開催を宣言していた。

 

     ※

 

「「ぶーっ」」

 

 倖と源は、うどん屋のカウンターで二人同時にうどんを吹き出していた。

 原因はカウンター脇のテレビから流れてくる映像である。

 

「宰相が言ってたのって……」

「あのにゃうんどがーるの事だったんですねぇ……」

 

 汚れた口元を拭う事もせず、ぽかんとテレビを眺める二人。今考えてみれば、これがごまるの国民としての初仕事であった。

 

「あの子、何かスケール大きいね。倖ちゃん」

「私もそう思います。源さん」

 

     ※

 

「でさぁ、兄者。何で私こんな事してんだろ?」

「本番中に何を言ってるんですか妹者!」

「宰相AD! 声入ってる!」

「あっ! すいませんっ!」

「……何でなんだろ。まぁ、いいけどぅ」

グレイ様作『羅幻コーチン誕生秘話〜スーナーニワトリ捕獲すちゃらか大作戦〜』

 羅幻王国の朝は早い。

 技術大国とはいえ、それを支えるのはやはり一次産業就労者の皆様である。日の出と鶏の一鳴きから、一日が始まるのだ。

 その中でも、一鳴きどころか百鳴きも千鳴きも響き渡る場所がある――国立養鶏場。先日の食糧増産令で大改造を施され、今では国内でも貢献率が高い施設の一つとなっていた。そこを訪れる、黒いスーツを着込んだ一人の男。

 

「おお、グレイさん。おはようございます」

「おはようございます、監督。今日もいい天気ですねぇ」

「グレイさん! 昨夜3匹が羽化しましたよ!」

「おっ、いい感じじゃないですか」

 

 貢献率上昇の立役者、グレイ。この男、宮殿出仕者のくせに、時間があれば必ずここを訪れるのである。自分が手掛けた仕事の進行具合が気になるのは当然といえば当然だが、それだけではないことを読者諸兄は既にお見通しであろう。

 

「グレイさん、はい、お弁当です」

「お、ささみちゃん、いつも済まないな」

 

 事務仕事をしているここの監督の娘、ささみが現れてグレイに包みにくるまれたお弁当箱を渡す。ちなみに大きさは重箱三段重ねであり、中身は言うまでもない。『いつも』という事は、ささみ嬢は彼が来ない日でもお弁当を作ってきているのだろうか?

 

「今日はゆっくりしていかれるんですか?」

 

 何やらはにかみながらグレイを見上げるささみ。二人の身長差は優に30センチを越える。

 

「うん、急ぎの案件はないし、少しだけお邪魔させてもらうよ」

「ほ、ほんとですかっ、じゃ、じゃあ宜しければこちらでお茶でも……」

 

 ぱあっと表情が輝き、グレイにそんな事を提案しようとするささみ嬢であったが……

 

「自家生産の方の目処がまだ立ってないから、色々と対策を練らないとね。じゃ、ちょっと行ってくる」

「あ……」

 

 一気にがっくりと項垂れるささみ嬢。耳と尻尾もへにゃっと垂れていて、痛々しいことこの上ない。その様子を見て、傍らで見守っていた監督――ささみの父親が問いかけてきた。

 

「ささみ、ひょっとして……」

「お父さんはうるさい」

「まあ、あの御仁、そういうのには鈍そうだからな。もっと積極的にだな……」

「だからうるさい」

 

 花より団子とは、正にこのことである。

 
 
 

『羅幻コーチン誕生秘話〜スーナーニワトリ捕獲すちゃらか大作戦〜』

 
 
 

「警戒情報ラインに侵入形跡?」

 

 ところ変わってここは羅幻王国宮殿内にある国王執務室。そこに集いしは、羅幻雅貴国王を筆頭に、かちゅーしゃ前摂政、蓮田屋藤乃軍師、ルクス宰相の四人。この国の重鎮四名が勢揃いして、首脳会議が繰り広げられていた。

 

「あらん、穏やかじゃないわねえ」

 

 蓮田屋からの報告を受けて、羅幻とかちゅーしゃが目を丸くする。

 

「先に私の見解を申し上げると、外敵のものではないとは思うのですが……」

 

 眼鏡の位置を直しながらそう告げる蓮田屋。その表情は困惑に彩られていた。

 

「国境防衛隊からの報告書を見ると、砂漠……北側に限られているようですね」

「ええ、それもこのところ頻繁に。報告が来ていますけど……妙なんです」

「妙……と言うと?」

 

 報告書の内容を一通り目を通したルクスが気づいた点を上げてきた。その通り、とほほえみで返して蓮田屋は続ける。

 

「サーモレーダーにしか反応がないんですよ……しかも地下だけに」

「「「地下!?」」」

 

 軍師の言葉に残りの三人が声を合わせる。軍師の言葉通りなら、それは新たなる脅威である。

 

「……妙でしょう? 潜水艦ならぬ潜砂艦なんて聞いたことありませんわ。で、反応を分析した結果、どうも生物のようなんです」

「じゃ、新手の根源種族とかかしらん?」

「そ、それって大問題じゃないですかっ!」

 

 口調は変わらないが、かちゅーしゃの表情が真面目のものに切り替わる……普段はただのオカマだが、やる時にはやる男なのである。そして普段から沈着冷静なルクスも流石に声を荒げる。その反応は無理もないものであろう。

 

「ああ、御免なさい。最初に言っておいたんですが、言葉足らずでしたね。『わんわん側や他国、それと根源種族でもない、外敵以外のもの』だと推測します。これを御覧下さい」

 

 そう言うと蓮田屋は手元のリモコンを操作して、壁に埋め込まれているモニターにある映像を映し出した。

 

「……何も映ってないわよん?」

 

 モニターの映像は、地平線まで続く砂漠の丘陵のものであった。一見、単なるいつもの風景にしか見えない。

 

「ここの所を良く見て下さいな」

 

 蓮田屋が胸元に差してあったペンを伸ばして、映像の一点に向ける。そこには……

 

「「何ですか、こりゃ?」」

「……ええ、そう仰ると思ってました。これはおそらく」

 

 そこには……何やら茶色っぽい……例えて言うと、鮫の鰭のようなものが映っていた。

 

「あ〜! 思い出した!!」

「「「陛下?」」」

 

 そこで、それまでずっと黙っていた羅幻がいきなり叫んだ。不意をつかれて仰天する三人。

 

「それは……」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「問題は夏ですか……」

 

 戻ってこちら養鶏場。新規に作られた飼育場で、担当のネックと言う青年とグレイが顔を突き合わせて話し合っていた。

 

「はい。ご存じかとは思いますが、元々ここらの地鶏……羅幻鶏は海岸付近やオアシスで生息しているんで、夏場は日陰等に身を置いて休眠するんですよ」

「ええ」

「その間、うちは開店休業ですみたいなもんです。雌鶏は卵を産まなくなる、雄鶏は動かなくなる。自家生産だけじゃなくて、この養鶏場全体の問題でもあるんです」

「そうだね……このままだと、安定供給にはほど遠いな」

 

 勿論、ここの養鶏場も空調を完備しているものの、羅幻鶏が持つ習性はそれでは改善されないらしく、毎年その問題にぶち当たってはなすすべもなく夏が過ぎてゆくという状況なのであった。

 

「今までに何度も改良案は出てるんですがね……大体、暑さに強い南国産の鶏と交配させるのが常なんですが、それをすると色々問題が出て来るんですよ」

 

 そしてネック氏は養育カプセルの中にいる、昨夜生まれたばかりのひよこを連れてくる。ぴよぴよぴよ。

 

「第一に、出生率の低さ。そして、肉質の低下。どうしても身体に栄養分を溜めるために、脂肪過多になってしまうんです」

「うーん」

 

 グレイが手を出すと、無邪気にぴよぴよぴよと寄ってくるひよこ達。まだ『天敵』の概念が表面化していないのだろうか、しきりに彼の指を突っつき出す。

 

「せめて、あの鶏が発見されれば……」

「……あの鶏?」

 

 ネック氏の呟きに訝しげな表情を見せるグレイ。彼の記憶野には、この国で“あの鶏”と呼ばれるに値するような鶏はなかった。

 

「ええ、絶滅したと言われていますが、僕はそう思いません」

「またどうして?」

「奴らほど過酷な環境に耐えうる鶏はいませんから。恐らくは……」

「恐らくは?」

「縄張りを移動させただけだと思うんです。ひょっとしたら渡り鳥のように……周期はかなり長いスパンで」

 

 力説するネック氏。流石のグレイもここは聞き手に回るより他にない様子。

 

「そうか……ならまだ生きてる可能性はあるのかな」

「そうですね。昔っから獰猛な奴らだそうで……僕の曾爺さんが研究していたらしくて、子供の頃は残してくれた本を読んでよく想像したものです」

「ふむ」

 

 顎に指を添えて考え込むグレイ……鶏以外の事にもこれくらい集中すれば、もっと出世するだろうに。

 

「じゃあ、探せばそいつらは必ずみつかる、と?」

「……断言はできませんが、恐らくは」

 

 台詞自体に説得力はないものの、ネック氏の瞳は力強い輝きを放っていた。

 

「分かりました。全力で探してみましょう……で、その鶏の名前は?」

「はい、その名は……」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「「「スーナーニワトリ?」」」

「そう」

 

 羅幻の言葉に目を丸くする三人である。

 

「曾お爺様の代くらいに絶滅したって聞いたけど。私も小さい頃に何回かくらいしか聞いたことなかったから忘れてたわ」

「それが、これですか?」

 

 ルクスが先程の画面を見詰める。そのフカヒレと鶏がどうにも結びつかない様子である。

 

「背中に鰭でもあるんですか?」

「ううん。それ、鶏冠よ」

「とっ、鶏冠って……じゃあ、本体は砂の中ってことなのん?」

「ネズミにミミズに今度はニワトリ……まだまだ勉強が足りないですわね」

 

 一気にリアルからお笑いの世界に叩き落ちてしまい、会議の雰囲気は完全に失墜していた。その中で、やっと復帰したルクスが提案してきた。

 

「では、どうしましょう。調査隊を出しますか?」

「……そうですね、ちゃんと調べないと気持ち悪いですし」

「そうねん、ここは、やっぱり」

「そうね」

 

 四人の思いは既に一つのようである。

 

「グレイさんにお願いしましょう」

「グレイさんしかいないわん」

「グレイさんが適任ですね」

「グレイさんに任せるにゃ」

 
 
 

「ぶえっくしょい!」

 

 ぴ〜

 

「わっ! ひよこ達が〜!!」

 
 
 

 そして、その二時間後。

 

「え!? マジですか!!」

「ちょ、落ち着いて下さい、グレイさん」

 

 宮殿に出仕して直ぐに国王執務室に呼び出されたグレイに、事の次第をルクスが伝えていた。

 

「まだ推測の域は出ませんが……で、全員一致であなたにお願いしようと……」

「お任せ下さい」

「いや、まあ、予想通りなんだけどグレイさん。せめてもう少し聞いて貰えませんか?」

 

 その即答っぷりに困惑しながらも、続けようとするルクスであったが……

 

「あ、グレイさん。パレードの時は有り難うござ……」

「お、コウちゃん、いいところに! 一緒に来て!」

「いましたってきゃ〜!」

 

 そんな声が執務室の外から聞こえてきた。

 

「早いにも程がありますよ……」

「大丈夫じゃない? 一応最初に渡した書類に大体の事は書いてあるんだし」

 

 性格からか、ひたすら心配性のルクスに対して、ひたすら楽観的な羅幻である。

 

「ま、イングリッドとシェンマをつけたからね。あの子達は優秀だから、きっと大丈夫」

「……運用する側に問題があるような気がしますけどね」

「うふふ、面白そうねん。私も行こうかしら?」

「駄目ですよ。かちゅーしゃさんは他に仕事があるんですから」

「きゃー、軍師殿、離して〜」

 

 そして既にグレイに対して信頼を寄せている蓮田屋は、今回の件について頭の中にある書類に『対策済』の判子を押してしまったのか、次の仕事をこなすためにかちゅーしゃの襟首を掴んで引きずりながら退出していった。

 

「……ホントに大丈夫かなぁ」

「じゃ、ルクスさん。あなたも行って来る?」

「へ?」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

『で、なんでボクが連れてこられてるんですかね?』

 

 がひょん、がひょんと歩くI=Dから通信が入る。それは、この前グレイとの五分間交渉で国民となった源の声であった。

 

「ここらで名を売っておいた方がいいだろうが?」

 

 その傍らを走る大型クロウラーの助手席から、グレイはマイク越しに源にそう言った。ちなみに運転しているのは比月コウ。たまたま執務室前で会っただけなのに、しっかりここまで拉致られてしまったようだ。

 

『とか何とか言いながら、なんか企ててるでしょう?』

「そんなはずないだろ? コウちゃんを前線に出したくないだけさ、女の子だし」

『ちょっ、ボクも女だって!』

『にゃ』

『にゃ』

『ちょっ、猫に肩叩かれたよ、ボク! しかも二匹に左右から!』

 

 どーっと両目から涙を流す源である。

 

「……一応冗談だったんだが、流石は陛下直属の猫士だな。空気を読んでいる」

「でも、グレイさん。私がI=D操縦しても良かったんですよ?」

 

 ステアリングを握りながらコウは、グレイを横目で見ながらでそう告げた……元々歩兵が本業の彼女だが、アイドレスの特性のお陰でI=Dの操縦もこなせるのだ。

 

「ああ、一応あいつを連れてきたのは理由があるんだ。さっきのは冗談だから、気を悪くしたらゴメンな?」

「いえいえそんな。グレイさんにはお世話になってますし、お手伝いするのはやぶさかじゃないんですけど」

「あはは、それこそ気にする必要ないよ。実は以前、無畏卿にお願いした新兵器があってね?」

「え!?」

 

 元々大きな目を一杯に見開いてグレイを見るコウ。その表情を言葉で表すと『驚愕』もしくは『愕然』か……もちろん、運転手がそんな状態なので、クロウラーは……

 

「ちょっ、コウちゃん危ない!」

「あ、ごめんなさい!」

 

 危うく横の丘陵に突っ込むところを、慌てて体勢を立て直す……なかなかのテクニックである。

 

「その、ドクター無畏に作ってもらったって……」

「なるほど、キーワードはそれか」

 

 羅幻王国民なら当然の反応であった。しかし、彼の名誉の為にも言っておくが、わけの分からないものを発明する以外、四方無畏という人物はもの凄く有能なのである。

 

「いや、単純な格闘用兵器だから爆発とかはしないよ……って言うかね?」

 

 転げ落ちた席に座り直しながら、グレイは続ける。

 

「あいつらは表皮が異様に硬いらしいんだ。下手に銃やミサイルで応戦したって時間がかかりすぎる。だから内部へ衝撃を伝える……しかも一撃必殺が大前提なんだ。逃げ足も速いしね」

「なるほど……って必殺!? 殺しちゃうんですか!?」

 

 必殺、と言う言葉に反応して、コウがうるうるした瞳でグレイに問いかける……やはり生き物をむやみに殺すのに抵抗がある様子。

 

「あ、いや。言葉の綾だよ……悪かったから、前見て運転してね」

『つまり、グレイさんの得意な『撲殺』で行くわけですね』

「だから、殺さないって」

 

 そこに割って入った源に苦笑混じりで返すグレイ。なんと物騒な会話なことか。

 

「で、まあ、そういうものの扱いにかけては源はピカイチなんでね、今回大抜擢なわけさ」

『そんな言葉には騙されませんよ? つまりは厄介事を押しつけてるだけのような気がしますね』

「だから大丈夫だって」

『……まあ、いいでしょう。で、その格闘用兵器って一体なんなんですか?』

「それはな……」

 

 その時、クロウラーに積まれたサーモレーダーに何かが反応したのか、車内にアラーム音が響き渡る。

 

「グレイさん! レーダーに反応がっ!」

「おいでなすったか……源、頼むぞっ」

「りょーかーいー」

 

 気合いの入ったグレイの声とは正反対に間延びして緊張感まるでなしの源の声。

 

「0時の方向……何かいます!」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「普段は砂漠の砂地が柔らかい所に潜ってるんです」

「……もぐらみたいだな」

 

 少し時間は遡って、再び養鶏場にある飼育場。飛んでいったひよこを回収した後、話を続けるグレイとネック。自然とスーナーニワトリの習性の話になっていた。

 

「ええ、ですが、鶏冠は外に出しっぱなしなんですよ」

「……そこは鮫みたいだな。面白い生態してるなあ」

「ええ、まるで双方のいいところを勉強したみたいですよね」

「ふむ」

「で、狩りの時には群れのリーダーが率いるグループ単位で動くんですよ。獲物を見つけたら、周囲を囲んで追い込んでいきます。リーダーは少し離れた所に待機して、狩りが終わるか、もしくは何か仲間に危機が起こると出てくるんです」

 

 ネックはその流れをホワイトボードに書きながら説明する。グレイはそれを真剣な眼差しで見詰めていた……鶏以外の事にもこれくらい集中すれば以下略。

 

「なるほど……出来ればそのリーダーを捕らえたいな」

「そうですね。種付け鶏にするなら、やはりリーダーでしょうね」

「じゃ、そのグループをどうにかしないといけない訳か……リーダーが一番でかいのかな?」

「いや、どうでしょう。群れで一番強い雄鶏らしいですけど、大きいからと言って強いとは限りませんし」

「あー、なんか別の動物の捕獲っぽくなってきたなあ……」

 

 グレイはにわかに戸惑っていた……今までの知識とかけ離れた鳥類の存在に。

 

「それはそうと……美味いのかなぁ」

 

 ……戸惑っていた。

 

「あ、喰えたもんじゃないですよ?」

「ええ!?」

「ただ、他の鶏と掛け合わせれば、素晴らしい鶏が生まれると思います」

「……思います?」

「……思います」

 

 ……二人の間に一種異様な空気が流れていた。

 

「お、と。そろそろ行かないとやばいな……じゃ、ネックさん。捜索隊の方はなんとか段取りしますので」

「あ、はい。それにかかってると言っても過言ではないので、どうかよろしくお願いします」

 

 そしてグレイがその場を去ろうとした時、飼育場の扉が開いた。

 

「失礼しまーす、お茶お持ちしましたー」

 

 現れたのはささみ嬢。両手に持ったトレイには、グラスについた水滴が涼しげな麦茶が三人分。

 

「あ、ささみちゃん、ゴメン。もう行かなきゃ」

「え? そ、そうなんですか?」

「うん。折角だからこのお茶はさっさと頂いていこうかな」

 

 トレイの麦茶の一つを取って一気のみするグレイ。ささみはその姿を呆然して見るばかり。 

 

「ふう、ご馳走様。良く冷えてて美味かったよ」

「あ、いえいえー」

「慌ただしくてゴメンな? お弁当も、一つ一つ噛み締めて頂くから」

 

 そして、すれ違いにグレイは飼育場を出て行った。

 

「……ささみちゃん」

「……言わないで、ネックさん」 

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

 グレイ達の所から100メートル程前方……そこには、一匹のスーナーミミズが横たわっていた。全長5メートルはあろうかという巨体を、砂の上に惜しげもなく晒していた。しかし……

 

「グレイさんっ! ミミズの周りを何かが!」

「ああ、奴らの鶏冠さ。あれは一種の感覚器官でね、ああやって獲物を探知するらしいんだ」

 

 それはあたかも鮫の鰭のように、スーナーミミズの周りをぐるぐると回っていた。その数、5。

 

「よし、みんな、ヘッドフォンをつけて! みなもと、奴らを燻り出す。ミミズの上空2メートル付近にこの音響炸裂弾をぶっ放せ!」

『ほいきた』

 

 グレイがレバーを引くと、クロウラーの後部ハッチが開き、そこからランチャーが現れる。I=Dがそれを引っ掴み、前方に向かって構える。

 

『イングリッド、ウェイトバランスの調整を。シェンマは着弾地点の割り出しを』

『『うにゃ』』

『さて、盛り上がって参りましたっと』

 

 そう言いながら源は手元に置いてあったポケットウイスキーを一口煽る。

 

『く〜っ、よし、気合い入ってきたっ』

「……グレイさん、大丈夫なんですか?」

「……まあ、いつものことだ」

 

 どう見てもアル中です。本当に有り難う御座いました。

 

 一方、ランチャーをI=Dに手渡したクロウラーは付近で一番高い丘陵の上へと移動していた。

 

「コウちゃん、レーダーをよく見ていて。ああやって獲物を狩るチームから少し離れた所にリーダーがいるはずだ。仲間に何らかの危機があったら地中から出てくる。今回の本命はそっちだからね」

「グレイさん、よく知ってますねえ」

「何、今朝仕入れたばかりの取れ取れさ。よもやこんなに早く使うとは思わなかったけどね」

 

 そう言ってコウにウインクするグレイ。

 

『ボクは前座ですか、刺身のツマですか、そうですか』

「ツマって……」

「馬鹿。前座なくして舞台の成功はないんだよ。さ、源……お手並み拝見だ」

『へいへ〜い……よし、ファイエル!!』

 

 源のかけ声と共に、I=Dが持つランチャーから『ぽしゅん』という音がして弾が放たれる。弾は放物線を描き、横たわるミミズの上空へと向かう……そして、炸裂。

 元々、集音マイクなどを使用不能にするために作られたものなので閃光は出ないが、辺りに爆音が轟き渡る。

 

「「「「「こけええええええええええええええええええええええええ!!」」」」」

 

 すると、どうだろう。ミミズの周りを周回していた鰭が飛び上がる。その姿は……

 

『うぇっ!』

「ふわっ!」

「ちょっ!」

 

 その色はチャボに似た焦げ茶色。頭頂には発達した鶏冠、そして魚のものを思わせる鰭状の尻尾と、発達して水かきが異様に大きな足……あと、なんと言っても。

 

『ぐ、グレイさん! な、なんであんなにでかいんすか!?』

「小さいものでも2メートルはありますよ!?」

「あのデカブツはアメショーと変わらんなぁ」

 

 そう、でかい。先日のミミズはもっとでかかったが、インパクトが違う。音に翻弄されたのか、翼をばたばたとひっきりなしに動かしながらふらふら揺れるスーナーニワトリ達。

 

「いや、大きいってのは聞いてたんだけど……あそこまでとは」

『まったく、そのすっとこどっこい、なんとかして下さいよ!』

「源さんのI=D一機じゃ無理ですよっ」

「いや、ふらついてる今ならなんとか……源! こいつを渡す! さっさとケリをつけろ!」

 

 そしてグレイはキーボードを叩く。すると再びクロウラーの後部ハッチが開き、何かが射出された。それは源の駆るアメショーの目前の砂地に刺さる。

 

『ちょっ、こ、これってグレイさん!?』

「おう、それ使え! で、コウちゃん、リーダーが出てきたら教えてくれ、俺も出る!」

「え!? 出るって……ちょっとグレイさん!」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「もう、鶏が絡むと神速ですね、グレイさんは」

 

 その頃、駐屯基地からキャットバスケットが一機発進した。操縦するのはルクス宰相である。

 

「……王様も面白がっちゃって……困ったもんです」

「ま、しょうがないんじゃねえ?」

 

 その後に立っているのは蒼凪羅須侘。丁度基地で暇を持て余していたところに、ルクスが飛び込んできたのだ。コレ幸いに、と同行を申し出たのであった。

 

「それでこそ“カオス・パンキッシュ・闇鍋”じゃねえか」

 

 心配顔のルクスと違って、にやにやとする羅須侘である。向かう戦場への高揚で、口調も心なしか伝法なものになっていた。

 

「で、どこのなにが相手だ? 俺も報酬は鶏で構わないからな」

「……その報酬が相手なんですよ」

「……は?」

「これを見て下さい。砂の上に出ているのが鶏冠です。それからして大きさは1メートルくらいあると思われます」

 

 ルクスに手渡された写真を見て、羅須侘は顔をしかめる。

 

「ひょっとして、スーナーニワトリか?」

「え!? ご存じなんですか?」

「ああ。ここいらじゃ絶滅したとか言ってるらしいが冗談じゃない。あいつらが絶滅するタマかっつうの」

 

 そう言いつつ、羅須侘はコ=パイロット席のキーボードを叩く。

 

「こいつの武装で足りるかな……お、丁度いいのがあるな」

「ちょ、羅須侘さんっ」

「ん? ああ、俺が諸国を放浪してたのは知ってるよな? 丁度羅幻王国と砂漠を挟んで正反対にいる国にいた時さ」

「はい」

「奴らが出てきたのさ。どうも周期的に餌場を変えるらしくてな。俺も見た時はびっくりしたさ」

「ひょっとして、数が多い……とか?」

「いや、数はそうでもなかったけど、なにしろでけぇのよ。大きい奴でI=Dくらいある」

「え゛」

 

 顔面蒼白になるルクス。もうそれは単なる鶏ではなく、モンスターの類であろうから無理もない。

 

「それと厄介な事に……ん?」

「? どうしました?」

「いや、ソナーに反応があった。この先5キロってとこか」

「ええ、急ぎましょう」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

 源が駆るI=Dの目の前の砂地に、太陽の輝きを反射させて突き刺さっているもの。それは……

 

「エクスカリバール!?」

 

 そう、グレイが有事の時に使用する主武装。彼の持つものは、約1メートルくらいの長さのバールを改造したものである。単なるバールと言えばそれまでだが彼曰く、それは実は単結晶でできていて、ほとんど折れたり曲がったりすることがないらしい。

 そして今、I=Dがそれを掴む。I=D用に作られたようで、その長さはグレイのものの倍の長さで2メートルはある。これも単結晶でできているのだとすると、それは強力この上ない殴打武器であると言えよう。

 

「どうせならトンファーかヌンチャクの方がいいんだけどなあ……ま、I=Dには無理か」

 

 そして、バールを一振りして、源は己がI=Dをスーナーニワトリへと差し向ける。

 

「行くぞ、ニワトリ王! ぶち撒ける脳漿は十分かっ!」

『なんか混ざってません?』

 

 レーダーを見ながらも、源からの無線の声を聞いて突っ込みを欠かさないコウであった。

 

「どりゃあああああああああっ!」

 

 雄叫びと共に、一番身近なスーナーニワトリに殴りかかる。その動きに無駄はなく、あっという間に一匹目の目前に迫った。

 

「くけええええええええええっ」

 

 そして横薙ぎ一閃。殴られたスーナーニワトリは一声鳴いて、地面に伏したまま気絶した。

 

「うにゃにゃ!」

「バックラッシュ27%だって?……どんだけ固いんだ? こいつら」

 

 すると、仲間の悲鳴で我に返ったのか、残りの四匹が頭を振って持ち直そうとする様子である。

 

「やべっ、急がないと……シェンマ、バーニア最大!」

「にゅ」

 

 そして手近の二匹に連続で襲いかかる。この辺りの動きは素早く、ふらついているとは言え奴らの死角に潜り込んで行く。流石は各国の外人部隊を渡り歩いてきた猛者である。

 

「こくぅあ!」

「くけえええええええぇぇぇぇ」

「うし!」

 

 流れるような連続攻撃を繰り出し、次々とスーナーニワトリを地に這わせる源であった……が。

 

「うわっ!」

「「うにゃっ!」」

 

 背後から強烈な衝撃を受けてI=Dが吹っ飛ぶ。5メートルは飛んだであろうか。

 

「こっこっこっこっ」

「くけえっ!」 

 

 残った二匹のうち、一際でかい奴がI=Dにぶちかましたのであった。そして、それよりも小ぶりな……と言っても2mはある奴も近づいてくる。

 

「やば……今のでどっかいったかな?」

「うにゃ! うにゃ!」

「そうか、騙し騙し行くか、頼む。イングリッド、シェンマのフォローを。制御は全部ボクがやる」

「にゃ!」

「さて、ますます面白くなって参りましたかねえ」

 

 先程のショックで打ち付けたのか、額から流れてきた血を指でぬぐって一舐め。窮地に陥りながらも、彼女は不適に笑っていた。

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

『グレイさん! レーダーに新たな反応! 来ました、リーダーのようです!』

「おいでなすったか……源の様子は?」

 

 後部で何やら準備をしているグレイの元に、コウがコクピットから連絡を入れる。

 

『二匹は倒したようですが、大きいのに体当たりされて……体勢は整えてますが、I=Dに不調が見られます!』

「……奴らも一筋縄ではいかんか」

 

 苦々しく呟くグレイ。すると、車内に再びアラーム音が響き渡る。

 

「何だ?」

『って、わ! 上空から何か来ます!』

「何だって!?」

 

 コウはサーモレーダーを注視していたので、アラームがなるまで気付けなかったようだ。しかし……

 

『って、このビーコンは……羅幻軍の! 助けが来ました!』

『グレイ殿! 源殿! 助っ人参上だ!!』

『援護します! 指示を!!』

「旦那! 閣下! 恩に着る! 源の方へ向かってくれ!!」

 

 そして、上空から迫ってきたキャットバスケットが爆音を轟かせながら源の駆るI=Dの元へと進んでいく。それから時間を置かずに大型クロウラーの後部ハッチが開き、そこから一機のウォードレスが飛び出していく。

 

「コウちゃん! 君は下がって待機! 源! 聞いたか? とりあえずそれまで持たせろ!」

『は、はい!』

『まかいときっ!』

「ターゲットは俺の相手のグループリーダーだ! 捕獲次第、撤退する! みんな、それまで頼む!!」

『『『『ヤー・ボール!!』』』』

 

 そして、ウォードレスをまとったグレイが向かう先は、現在の戦場を俯瞰して見渡せる丘陵の上であった。

 

「さて、どんな奴かな……お」

 

 そこには。

 

「こけ」

「あら、お手頃サイズ」 

 

 先程いた五匹のものよりかなり小さい……それでも普通の鶏の二倍くらいはあるだろうか。しかし……

 

「くぅ?」

 

 色はこげ茶というよりも黒に近く、左目には何故か傷が入っており、隻眼のようだ。グレイが近づいて来るのに気にした素振りも見せないその様は、威風堂々と言ってもいいだろう。

 

「なかなか貫禄あるじゃないか……じゃ、お手並み拝見といこうかなっと!」

 

 そしてグレイは背中に装着していたエクスカリバールを抜き放ち、リーダーの目の前に飛び出すや否や、袈裟懸けに一閃。

 

「ぐをっ」

「くぉっ」

 

 はしっとばかりに嘴で咥えるリーダー……。力が拮抗しているのか、双方ピクリとも動かない。

 

「のやろっ、やるじゃねえかっ」

「くぉくぉくぉっ」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

 一方、他の三人の戦況はと言うと。

 

「こけっ、こけっ、こけっ」

 

 二匹のうちの小振りな方に、キャットバスケットからの銃弾が当たる。源の駆るI=Dから距離を離す為の援護射撃であった。

 

「しかし、上手いことこんなものがあって良かったなあ」

 

 操縦桿を操りながら、器用に射撃を繰り返すルクスが呟く。このキャットバスケットは先般の戦勝パレードの際に使用されていた物で、弾倉には暴徒鎮圧用のゴム弾が装填されていたのである。

 

「さあ、源さん、頑張って!」

『ありがと、宰相閣下! 帰ったらとっておきをごちそうしますからねっ」

「あはは、お気になさらず! こっちの一匹は……」 

『俺達がやってやるぜぇぇぇぇぇ!』

 

 叫びながら、地面に着陸するウォードレス……羅須侘である。しかし、彼は得物を一つも持っていなかった。

 

『くくく、久々のステゴロだぜ……腕が鳴る……俺を満足させろよなあ!!』

 

 そして、神速の動きで相手に肉薄、右のファーストブローが唸りを上げて、スーナーニワトリに食い込む。

 

「くきゃあっ!」

『う……流石に堅ぇえな、おい』

「羅須侘さん、無理はしないで!」

『ああ、判ってらあな!』

 

 一方の源も、操縦系統が自分だけになったとは思えない動きで、一番でかいスーナーニワトリ相手に立ち回っていた。

 

『この状態でも、タイマンだったら負けないっ』

「こ、こけっ、こけっ」

 

 手にしたエクスカリバールを操りながら、右へ左へ俊敏な動きで立ち回る。一撃を与えては動き、見事なヒットアンドムーブであった。相手もうまく立ち回ろうとするが、源の動きはずば抜けていた。やはり5mの巨漢は、種族的にも動きが鈍いのであろうか。しかし……

 

『まだ倒れない? 一体どんな体力してんねんな!?』

「源さん、焦っちゃ駄目だ! そっちにも援護に行きましょうか?」

『大丈夫ですよ……閣下は羅須侘さんの援護を』

 

 そう、図体がでかいということは、耐久力もでかいのであろう。

 

『早くしないと……他の奴等が起きたら厄介だぞ……グレイさん! まだですかっ!?』

『すまん、もうちょい頑張ってくれ!! ……流石はリーダーなだけの事はある』

 

 そして、グレイの方もかなり苦戦している様子。無線を通じて聞こえてくる息づかいがかなり荒い……源も初めて聞いた程である。

 

『あなたがそこまで苦戦しますか……頼みます、こちらも何とかやってみます』

「……仕方ない。源、リミッター解除する。後は頼むぞ?」

『え!?』

 

 グレイのリミッター解除……昔、一度だけそれを目の当たりにした源はそれを聞いて戦慄した。下手をすれば、その後処理はスーナーニワトリ全部が起きてくるよりもタチが悪いんじゃないか、そう思ったのである。

 

『ちょっ、まっ』

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

 コウは考えていた。自分は待機しなければならない立場ではあるが、目下のところみんなが苦戦している。自分にできる事ならば、何かをしたい。そう、考えていた。

 

「何かないかな……あ、これ……まだ使えるのかな?」

 

 そんな思いを胸に、クロウラー後部の荷台に何かを探しに入るコウ。そこには、先程源がI=Dで使用したランチャーが残されていた。

 

「弾がまだある! これをさっきの……コクピットに連動させて……これでOK! よ〜し!」

 

 その横にある、エクスカリバールを射出した装置を立ち上げて操作した後、コクピットに戻ってキーボードを叩く。現在の戦場で最も適した爆発ポイントを算出し、砲身の射出角度を調整する……国内でも五指に入るコ=パイ能力の面目躍如である。

 

「これで……行けるはず!! 『みんな、聞こえる? 今からさっきの音響炸裂弾を発射する! 発射後五秒で炸裂するから耳を塞いで!!』」

 

 無線を開いて各人にそう告げると、みんなの反応が返ってきた。

 

『ナイス、コウちゃん! ヤー・ボール!』

『OK! じゃあ、仕上げだな!』

『良かった……リミッター解除されなくて済んだ……って、え!? ちょ、ボク、耳なんか押さえられないよ!?』

『源さん、センサー類を一旦、猫士に切らせて!』

 

 一部がてんやわんやになってはいるが、時間もない。コウは指に力を込める。

 

「行くわね! 発射!!」

 

 『ぽしゅん』という音がして後部の射出装置から弾が放たれ、再び辺りに爆音が轟き渡った。

 

「「「くけえええええええええええええええええええええええええええ!!」」」

 

 その音に反応して飛び上がった後、前後不覚の状態になる三匹のスーナーニワトリ。その大きな隙を利用して力を溜める、グレイと羅須侘と源。そして……

 

『今だ! 『約束された撲殺の金梃』ーーーーーーーーーー!!』

『必殺! 『S(スペシャル)! R(ラスタ)! T(サンダー)!!』

『ミナ(源己)! バウアー(相殺拳)! どーん!!』

 

 三人それぞれの必殺技が炸裂する。その強烈な一撃に沈んでいくスーナーニワトリ達であった……。

 

「やったああああ!!」

『ふう……終わりましたか……』

『うむ、コウ殿、GJだ!』

『はい! 金メダル!』

『……馬鹿女』

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「ちょっと、源さん! どういうつもりですかっ!!」

「……源、やりすぎ」

 

 その後、リーダーを回収して撤収してきた一行は、使用した物の整備に大わらわであった。特にI=Dを任され、その上整備まで押しつけられた源は辟易としていた。彼女の元で新国民の大川倖とヴィスが怒りを露わにしていたからである。

 

「え……ボ、ボク?」

「ああもう! 女の子が顔に傷をつけてどうするんですか!!」

「何にやられた? 背部装甲が80%破損、操縦系及びセンサー系の数値も50%ダウン」

 

 噛み付かんばかりの勢いの倖に対して、ヴィスは基本的に無表情なので判りづらいが、彼女の場合はその身に纏うオーラで一発でわかる。

 

「それに眼鏡も割れてしまってます! もう、大事にしなきゃ駄目じゃないですか!」

「……ひょっとしてそっちが本命?」

「本気で怒りますよ?」

「ちょ、ごめ……」

「ま、生きて帰った。良しとするか」

 

 そんな三人のやり取りを横目で見ながら、他の三人は今回の件について手を動かしながら語り合っていた。

 

「いや、流石はコウさんだ。あれがなかったら今頃どうなっていたか……」

「そ、そんなことないですよっ」

「そんなことはある。コウ殿、恩に着る」

「ら、羅須侘さんまで……」

 

 ルクスと羅須侘に絶賛されて照れ照れのコウであった。

 

「みんな、お疲れ様〜♪」

「あ、陛下」

 

 そこに現れたるは、羅幻雅貴女王陛下。にこにこと言う擬音が聞こえる程の笑顔で場内に入ってくる。

 

「手こずったみたいだねえ。でもまあ、心配はしてなかったよ♪」

「陛下の先見の明のお陰ですよ……手前味噌ながら、私達が援軍に行って良かったです」

 

 苦笑いするルクス。この女性が何気なくやる事には、必ず意味がある事を知っていた上での彼の行動だったようだ。

 

「まあ、グレイさんのことだからねえ……蓮田屋さんに聞いてたからそうしたのよ」

「そういえば仰ってましたよね。『あの方は何でもできるけど、すっとこどっこいですから』って」

「そうだな……グレイ殿は臨機応変に過ぎるな。まあ、それも彼の持ち味なんだろうが」

「あの人のすっとこどっこいは筋金入りですからねえ」

 

 そこにしつこく食い下がる二人から逃げてきた源が割って入ってきた。

 

「源さん! 手当が終わるまでお酒飲んじゃ駄目!」

「ぎゃふん」

 

 つもりだった。

 

「……終わり良ければ全て良し」

「あはは、ヴィスさんの言う通りだよね……そう言えばグレイさんは?」

「ああ、グレイ殿なら……」

 
 
 

          §          §          §

 
 
 

「はい、グレイさん。終わりましたよ」

「イタタタタ……ささみちゃん、包帯締め過ぎ……」

 

 そのグレイは、スーナーニワトリのリーダーを連れて、養鶏場に直行していた。

 

「何を言ってるんですか! こんな酷い怪我をしてきて! 死んじゃうかと思ったんですからっ」

「いや、それは流石に言い過ぎじゃない?」

「グレイさん! 早速、つがいにして部屋に入れておきましたよ!」

「お、そうですか。楽しみですね」

「……もう」

 

 そして数日後、無事に目論み通りの素晴らしい食用鶏が生まれ、その名も『羅幻コーチン』と名付けられたのである。

 
 
 

 ちなみに……

 
 
 

「きゃー! グ、グレイさ〜んっ」

「どうした、ささみちゃん?」

「またタクローがっ、タクローがあぁ!」

「ごるぅあ! タクロー! いい加減にってどわあああ!!」

「くけえええええええ!!」

 

 すっかりグレイと意気投合し、『タクロー』と名付けられたスーナーニワトリのリーダーが巻き起こす事件は、また別の機会に語ることにしよう。

 
 
 

                    〜Fin.〜

 

 

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Last-modified: 2017-06-19 (月) 21:10:00 (1254d)