王立図書館2F

イベントなどで提出するSS等の文章類を掲示しております。

イベント06:募集01読み切りSS

 

 

四条 あや様作『羅幻王国文族の憂鬱 〜 比月コウのとある一日 〜』

 

 

 いつの間にか溜まっていた書類仕事が全部片付いたのは、結局、お日様が空高く上りきった頃だった。

 僕は書類の束を通り掛かったメイドに渡し、丸一日篭っていた資料室を後にした。

 白亜の廊下をてくてくと歩く。思わずあくびが洩れそうになったが、なんとか堪えてみた。すれ違うメイドやら執事やらのしゃんとしたが姿がどうにも恨めしい。

 

「……いかん。帰って寝よう」

 

 どうにも腐りかかってる自分の意識を宥めながら、一路、宿舎へと向かう。が、足取りが重く、窓から差し込む陽の光が目に痛い。

 これじゃ不健康とか言われてもしょうがないよなー、とかぼんやりと思いながら僕は廊下を進む。途中でにゃははー、と笑いながら廊下を走る羅幻を見たが、きっと目の錯覚だろう。この時間は公務のはずだから。てか仕事しろよ王様。

 廊下を歩いていると、結構な人数とすれ違った。まぁなにせ今は昼間なのだ。普通であればお仕事真っ最中の時間帯である。書類を抱えた吏族、難しそうな顔をしてぶつぶつと呟きながら歩く白衣の男。会議中、と札の掛かった部屋からは喧々囂々とした議論が聞こえ、別の部屋の中途半端に開いたドアからは部屋の中でくるくると回るコウの姿が覗け――

 

「――ちょっと待て。なんだそれ」

 

 思わず足を止め、僕は呟いていた。来た廊下を戻り、件の部屋の前に立つ。第三講義室、と札の掛かった其処は、その名前通りの用途に使われる部屋で、全部で5つある講義室の中では一番小さなものだ。収容人数は、確か二十三人。僅かに開いたドアの隙間から、僕は部屋の中を覗き込む。

 すると、

 

「あ、やっほー四条君」

 

 部屋の中央で、テーブルクロスにぐるぐる巻きにされた比月コウが床に転がりながらにこりと笑った。

 とりあえず、ドアを閉めてその場を立ち去ることにする。

 しかし、

 

「あ、こらー! 無視するなー!!」

 

 ドアの向こうから非難めいた叫び声が鳴り響き、僕は足を止めた。うう、神様、なんで今の光景が夢じゃないんですか……?

 悲嘆に暮れても仕方ないので、僕は再びドアの前に立ちそれを開いた。

 部屋の中央にはテーブルクロスに包まれたコウが転がっていた。

 ……頭痛くなってきた。

 

「何やってんですか、アンタ」

「ダンスの練習」

 

 さて。どうしようこのナマモノ。

 

「あ、その目は信じてないね?」

「無駄に明察ですね。と言うかどう信じろって言うんですか」

 

 部屋の中は妙にがらんとしているが、その理由は直ぐに知ることが出来た。部屋の中にあった筈の椅子と机が悉く姿を消しているのだ。その代わりとばかりに壁際には長机が並べられており、所々にはテーブルクロスまで掛けられている。

 ちっちっち、とコウは芋虫みたいなかっこうのまま器用に指を振ると、こちらを馬鹿にしたような顔をした。

 

「分かってないね。コレが共和国最先端の」

「じゃあ行きますね僕」

「ちょ、待ちなさいよ! 人の話は最後まで聞きなさい!!」

「眠いんだよ寝させてよ頼むから僕を巻き込まないでよっ!」

 

 もう二日ほど寝てないんだよぅ。

 そんな僕の嘆願は、しかし目の前の芋虫には聞き届けられなかったらしい。

 ふふん、と何故か偉そうに胸を反らすコウ。

 

「そう思うなら私を手伝いなさい?」

「……時々、君と本当に意思疎通が出来てるのか疑問に思うんだけど――まあいいや。何?」

 

 何を手伝わせる気か知らないけど、簡単な内容ならとっとと済ませて帰って寝よう。その方が多分早い。もし手間のかかるような頼みごとだったら……逃げよう。コレは羅須侘あたりにでも押し付けて。

 僕の言葉に、そうね、と頷いたコウはしばしば考えるようにして、

 

「とりあえずコレ、解いて」

「やっぱ馬鹿だろアンタ」

 

 素直に感想を述べると脛に頭突きをされた。

 あまりの痛さに蹲る僕。

 

「ほら、さっさと解きなさい」

「……」

 

 逆らわぬが吉。

 僕はようやくその結論に至り、コウの身体をぐるりと覆ったテーブルクロスを解いた。てりゃ、ところころとコウを転がすと、クロスが解け、中からコウの身体が出てくる。

 そのままコウは、勢いがつきすぎたのかそのまま壁際まで転がって行った。がつん、とざまぁみろな音、もとい小気味のいい音がする。

 壁にぶつかったコウは暫くの間ぴくりともしなかったが、やがてむくりと身体を起こした。怪我一つないあたり、やはり頑丈である。無駄に。

 と。

 

「お?」

 

 立ち上がったコウの姿を見て、僕は思わず声を洩らしていた。沈み込むような青の色が目に飛び込んでくる。ドレス――強化服ではなく、純然たる原意のままのそれを着込んだ女性が其処に居た。

 おでこにでっけぇたんこぶを作って。

 ……一瞬でもときめいた僕が馬鹿だった。

 てくてくとこちらに戻ってきたコウは満足そうに頷くと、

 

「てりゃ♪」

 

 と可愛らしく言いながら僕に小奇麗なアッパーをかましてくれやがった。

 軽く浮いて盛大にふっとぶ僕。くそぅ、僕と大して変わらない身長の癖に、この威力は何なんだ。チートでもしてんじゃねぇかコイツ。それとも僕が脆弱すぎるのか?

 ぐわんぐわん揺れる頭で愚痴をこぼすが、そんなのが聞こえるはずも無く――と言うか聞こえてたら今度はキックでも飛んできたんじゃなかろーか――コウはドレスについた埃を払う、一回は一回だよね、と当然のように呟いていた。

 

「……で」

 

 立ち上がりながら問う僕。

 色々な意味で限界なのだが、ああ、もう。

 

「結局何やってたんですか、コウさん」

「ん? だから、ダンスの練習」

「何でまた唐突に」

「えへへ、今日はゲストが来るのですよーっ!」

 

 ……ああ、なんか言ってたなそんなコト。丸一日誰とも話してないからすっかり忘れてた。

 僕自身は誰が来るのか知らないのだが、まぁ、コウにとっては大事な人なのだろう。そんなのは、いつもより五割増――いや三割増ぐらい? ――にはしゃいでるコウを見れば直ぐに知れる。第一、普段は着飾るなんてことをまずしない彼女が、舞踏会にでも出られそうなドレスを着ているという点で、今日のゲストをコウがどれほど楽しみにしているかなんてのは明白すぎるのだ。

 はぁ、と僕は息を吐いた。寝たいんだけどなー。正直、眠りたいんだけどなー……

 

「……そうですか。まぁ、邪魔はしないので頑張ってください」

「うん。解いてくれてありがとねー」

 

 言うが早いかタップダンスのような動きを始めるコウ。

 僕はその姿を数秒ほど眺め、ダンスホールもどきになっていた講堂を後にした。  ドアを後ろ手に閉め、そのまま横手へと声を掛ける。

 

「と言うか。見てたなら助けてくださいよ、前摂政」

「やぁよメンドクサイ」

 

 けらけらと笑いながらそう言うのは、僕とコウとのやりとりをずっとドアの隙間から眺めていた暇人、かちゅーしゃである。

 

「ところで四条クン、おうさま知らない?」

「さっきあっちに走って行きましたけど」

「そ。アリガト。おうさまが居ないとアタシにお仕事廻って来ちゃうのよねぇ。蓮田ちゃん、もうちょぉっとぐらい手加減してくれてもいいのにぃ」

「……コメントは差し控えます」

 

 本音を言うと、仕事しろよアンタら。人にネズミ捕りに行かせる余裕あるなら。

 ふふん、と小さく笑うかちゅーしゃ前摂政。その笑みは、まるで僕の心の呟きを逃さず聞き取ったようだった。

 

「じゃ、アタシは行くわねん」

「はい――っと、そうだ。今日のゲストのコトですけど。準備って、出来てるんですか?」

「出来てると思う?」

「いえ全然」

 

 裏方に廻るの苦手な人ばっかで、廻る人はいつも忙しいからなぁ……

 かちゅーしゃは愉快そうにけらけらと笑い、ぽん、と僕の肩を叩いた。

 

「任せたわん」

 

 ……だろうなぁ。やっぱそうなるよなぁ。

 はぁ、と僕は息を吐いた。それが諦めか開き直りか、僕にもよく分からない。

 

「んじゃ人を使わせてもらいますよ。あと場所は……どうせなら第一ホール使っちゃいますか」

「どうせなら盛大にやってねぇん」

「分かってますよ。文句は山ほどありますけど」

 

 ……まぁ。

 まるで童心に帰ったかのように今日のダンスを心待ちにするコウを見ると、文句も引っ込むというか。

 しゃあないな、と思ってしまうというか。

 ばいば〜い、と手を振りながら去っていくかちゅーしゃ前摂政の背中を眺めたあと、僕は進行方向を変えて事務局へと向かった。

 その後、誰も手をつけていなかったパーティ会場のセッティングに付きっ切りにさせられ、結局寝たのは日付が変わってからだった、というのは誰にも明かせない笑い話である。

 

 

イベント06:募集03提出

 

 

絢人様作『今からゲームを開始するひとのためのガイド』

 

 

 電網適応アイドレスをはじめるかる方へ、このゲームは【お餅】みたいなものです。

 びろーんと伸びる柔かさを持ち、醤油でも、あんこでも、きな粉でも、勿論何も付けなくても美味しく食べれるあの【お餅】です。

・『絵を描く』ことが好きならば、このゲームの世界を、創り出すことができます。

・『文章を書く』ことが好きならば、このゲームの世界を、広げる事ができます。

・『情報をまとめる』のが好きならば、このゲームの世界を、空から見下ろす感覚が楽しめます。

 

 え、どれも自信がない?

大丈夫です、今みんながしているのは、お餅を叩いて、こねて、焼く。こんな作業です。

 この作業は確かに楽しいですが、一番面白いのは、出来たてのお餅を食べるとき。

 

 もうすぐ今プレイしている人々によって、お餅が焼きあがろうとしています。  せっかく作った【お餅】。皆で食べた方が美味しいに決まってます。

 役に立たないなんてことありません。この楽しいゲームを見つけた、それだけで『十分の運と力』があります。

 

 参加資格なんてものは元々ありません、まずは【ゲームの世界】を見て回ってください。

 世界がつまらなかったら、狭く思えたら面白くしようとちょっと動いてみてください。

 世界は【お餅】ですから、簡単に形が変わります。貴方でも変えられます。

 ただ一緒に、囲炉裏を囲んでわいわい食事をするだけでも、【貴方は立派なプレイヤー】なんです。

 

 

イベント09:物語で見る各国の戦争準備状況提出SS

 

 

四条 あや様作『物語で見る戦時状況』

 

 

 羅幻王国王都中央区。

 普段は陽気な国民たちで溢れかえるその区域も、今日ばかりは勝手が違っていた。

 

「志願工兵受付所はどっち!?」

「馬鹿、そりゃ西区国民窓口だこっちじゃねぇ!!」

「整備工具追加三ダース発注です! 第七工廠!」

「手の空いてる奴はリフト使え! おい其処の馬鹿、エレカーなんて使うな邪魔だ!」

 

 国民中央窓口の前にごったがえす国民と、職員たち。絶え間なく怒号が響き、伝令が次から次へと打たれている。連絡員は小型バイクで入り組んだ都市部を器用に行きかい、我こそは、と思うものは皆自分の力を国のために使おうと窓口へと押しかけている。

 戦時発令から、僅か1時間である。昼前に羅幻雅貴伯爵夫人の名で発令されたその報は、瞬く間に羅幻王国全土へと広まり、そこかしこで似たような混雑を生んでいた。

 
 
 

 羅幻王国、宮廷。

 戦時用特殊書類の束に次々と認証のサインを記す羅幻雅貴の姿が、其処にはあった。

 執務室の机に着き、自分の背丈ほどはあろうかという書類の山を次々と処理していく。一見、何も考えずに処理をしているようだが、時折サインの手を止めて破り捨てる書類がある。一応、可否の判断は行っているらしい。

 

「忙しそうね、おうさま」

 

 のほほんとした声を掛けるのは、傍に控えたかちゅーしゃである。

 

「まあ、場合が場合だしね」

 

 普段なら声を掛けられたこと幸いと雑談に移る雅貴であるが、今日は違った。かちゅーしゃの言葉に応えながらも、ペンを走らせる手は止めず、その視線は机上の書類へと向けられている。

 

「流石に我が国のピンチとなっちゃ、ふざけてる暇もないでしょ?」

「偶には同意しておくとしましょ。で、既にチェック済みの書類、貰っていいかしら?」

 

 黙って頷く雅貴。

 かちゅーしゃは失礼、と柄にも無く殊勝に断り、雅貴が既にサインをし終えた書類の束を抱え持つ。ぱらぱら、と書類を捲り、ふん、と小さく鼻を鳴らした。にやり、とその口端が不穏に歪む。

 かちゅーしゃは羅幻王国の前摂政である。その以前の地位とその有能さにおいて、まだ幼くなにかと暴走しがちな雅貴に代わり――時折は自分もノって暴走に加担するが――王国の執務をこなすことも多い。だが、それでもその権限はあくまで藩王、羅幻雅貴の下にある。そして、戦時の執務権限は原則的に全て王へと奉還されるのだ。割とおちゃらけた所の多い羅幻王国であるが、普段目に付かないその根っこは、あくまで王を主とした国なのである。

 なので、王国が戦時状況と認定された以上、かちゅーしゃに出来ることはあまり多くない。

 しかし、

 

「オッケー、おうさま。これで私が動けるわ」

 

 その原則もまた、藩王の権限でもって覆すことは可能である。

 かちゅーしゃは受け取った書類を脇に抱えると、空いた手で雅貴がまだ未処理である書類の束をがしりと掴み、雅貴の机から少し離れた所にある自分の机へと運んだ。

 椅子に座ったかちゅーしゃは首を鳴らすと、傍らのペンを手に取り書類に目を走らせる。工務省からの特殊流通嘆願書。内容不備なし。申請理由妥当。受理。次の書類。同じく工務省から、人員融通の嘆願書。内容不備なし。しかし、人手不足なのは何処も同じである。故に不受理。次の書類……

 

「おうさまー、食糧備蓄ってどのくらいあったっけー?」

「6ヶ月分はあるけど、うち2ヶ月分は今からじゃ回収が難しいかな」

「りょーかい。んじゃ食糧流通は一旦管理下に置くわよー?」

「任せるー」

 

 妙に間延びした会話をしながらも、二人の手は平時のおちゃらけ具合が嘘のように書類に目を走らせ、受理していく。

 もしこの場に他の誰かが居たのなら、思わず自分の頬を抓っただろう。

 

「……ねえ、おうさま」

 

 ふと。

 しんみりとした声で、かちゅーしゃが雅貴に声を掛けた。

 

「なに?」

「護りたいわね。この国」

「――」

 

 サインを走らせていた羅幻雅貴伯爵夫人は、その言葉にきょとんと顔を上げ――

 

「何言ってるのよ」

 

 にやりと笑い、呟いた。

 

「護ってみせるに決まってるじゃない」

 

 

羅幻雅貴&四方無畏リレー小説『飛べ、その翼よ』

 

 

 羅幻王国は、突然の戦時動員開始にどたばたしていた。燃料はあるのだが、なんといっても、金が無いからだ。

 

「う、ウチ、このままじゃ藩国落ちしちゃうにゃ〜! 皆路頭に迷うにゃ〜」

 

 猫尻尾も猫耳もへちょんとしながら涙流しつつ、とりあえず会議しなきゃと仕事する羅幻王。その横で普段はギャグをやってるかちゅーしゃ前摂政も必死で仕事している。だが、状況は少しずつ悪化していた。

 

「そんな事させませんから、必死で仕事してください。こちらも対応しますので」

 

 そう言いつつ金策に必死になっている軍師殿……蓮田屋藤乃も、どたばたと忙しい。そんな喧騒の中にあまりにも場違いなひとつの声が響いた。

 

「お〜ぃ、暇なやつは表出て来い! 我が渾身の作品のお披露目じゃ!」

 

 こんな時にこんな能天気な声を出すやつは四方無畏以外、この国には存在しないだろう。しかし……誰も振り向きもしない。

 

「む? 折角新型のヘリを開発したというのに、なんで誰も反応しないんじゃ?」

 

 新型のヘリ、その言葉が口から出た瞬間に全員が反応した。

 

「新型ですってえ〜! そんなもん作ってるヒマあるならお金……ん?」

 

 ここで、ふと思った羅幻王。

 

(もしかしたら、これを売れば稼げるかもしれない)

 

 ……でも、この自称天才の技族――四方無畏は、よくモノを爆発させたりしてるではないか。さらには、試作機に乗せられてそのまま砂漠から戻って来れなくなった事も体験している。それでも、確かに優秀なのだ、彼は。そして、決意した。これに賭けようと。

 

「よし……これを売っぱらうわよ! 誰かテスト飛行させて、あと1日で至急完成させなさい! 安全で優秀じゃなかったら、無畏、貴方給料ゼロにしてやるからねっ! 暇な技族を急いでかき集めて!」

「アイドレスは出すんですか?」

「出して。パイロットで良い筈よ。……お金は、ポケットマネーから出すわ」

「判りました。流石藩王、太っ腹です」

「父上のポケットマネーもあるから。でも、殆どこれで消えちゃうけどね」

 

 少し弱々しい表情で、羅幻王は笑う。厳しい国家予算から少しずつ出ている王家の生活費用は、そう多くはない――質実剛健を元としているからでもあるが。元々、国家自体がそう余裕があるものでは無かった事は彼女も重々承知していたが、先の冒険の失敗は、やはり痛かった。

 
 
 
 
 

 さて、演習場に集められたパイロット達は皆一様に不安げな顔をしていた。それも当たり前だろう。つい昨日も無畏の研究棟で何かが爆発し、黒い煙を上げていたのをほとんどの者が見ていたのだから。  そんな彼らの顔と対照的に無畏の顔は非常に嬉しそうである。

 

「お任せください! この天才の開発した物ですぞ! 失敗などありえませんな」

 

 ちなみに、失敗して発明品を爆発させた時にも同じような事を言っていたのだから信用ならない。

 

「あ、今回の新型ヘリは輸送用なので武装はつけられておりません。そのため、武器の誤作動等での事故は無いので安心してください」

 

 微妙に安心なんだかそうでないんだかわからない台詞を吐いたのは、常人には理解できない理由で時々無畏を手伝っている針千本である。今回比較的に暇だった為、彼のお目付役を申し渡されたのだ。

 

(これは仕事、これは仕事)

 

と、自分に心の中で言いきかせながら、集まった彼らを見て口を開いた。

 

「とりあえず、今出せる予算は王様のポケットマネーだけです。 軍事費はすべて戦時動員で使われます。 なので、一発で各種テストを通るよう無畏を気にせず設計図の不味い部分や機体の問題点を、今夜中に洗い出してもらいたい」

 

 実際、時間が無いし、金もない。だが、最悪の状況下であってもギャグをやれる余裕はあるはず、と針千本は思っていた。それでも、ギャグをやるためには多くの余裕が必要だ。それを造り出すのが、今回の自分の仕事と彼は理解していた。

 

「失敗した場合、諸君の給料はほぼ半分以上カットされると思って下さい。これは国家プロジェクトで、恐ろしく緊急を要する案件でもありますから」

「は、はいっ!」

「では、早速作業に移って下さい! 急いで!!」

 

 その言葉と共に散開した吏族とパイロット達が設計図と機体に群がる。さらにその一部が無畏の説明を必死に聞き、データを集める。その中からリーダーが自ずと決まり、お互いの情報交換をしながら方向をきっちり定め、次々と動き出す。見事な連携プレーである。彼らは、『無畏に仕事をさせてはならない』という一点で動いていく――なにせ、この一機体でも金がかかっているのだから爆発してもらっては大変な事になる。

 予算がない、という条件なら、過去に何度もクリアしてきた羅幻王国の上層部である。このような事態の捌き方は十分に心得ていた。後は、なんとかして稼ぎ出すだけだ。様子を見に来たその上層部の一人、かちゅーしゃ前摂政も、煮詰まりつつある針千本を見て、ふう、とため息をついた。現場レベルでも事務レベルでも、様々なモノが足りなさ過ぎる事を知っていたからだ。

 

「まったく、時間も金も……人すらも足りないみたいねェ」

「……どうする……どうすればいい……」

「簡単ヨ。人がナイならひっぱってくればイイじゃなーい? 大学院とかの優秀な人材とか。それに吏族と仕事できるなんて、最高級の仕事じゃない?」

「そ、そうか! 時間が無いなら人を集めろ、金も無いならバカを集めろ、それですべてはカタがつく!」

 

 この言葉を合言葉に、使えそうな物・人は片っ端から集められた。高等教育を受けている吏族予備生から果ては近所の子供まで。する仕事は幾らでもあり、データ整理に器材の運搬、人員整理から食事準備まで、できるところへ手当たり次第に割り当てられていった。ちなみに、ほぼ全員「報酬なし・労働時間無制限」であるが、それに文句を言う人間はいない。

 何故なら、誇り高き羅幻王国が準藩国に落ちるなど、羅幻王国の民のプライドにかけてあってはならないことだったからだ。元々、技術立国としてなるまで砂漠の弱小国として辛酸を舐め尽くしていた民である。それこそ、大動員令を持ち出されても良いくらいに、準藩国落ちはその誇りを傷つける事であった。

 

 まさに『国家の興亡、この一機にあり』である。

 

 そしてそれを判っている政府上層部もまた、動き出していた。羅幻王国にある総ての門戸を開き、文族やそれをサポートする大族が必死に己の力量の全てを賭けて物語を造り出して販売し、かちゅーしゃ前摂政は文族と無畏のチームをサポートするべく資材調達から様々な雑事まで、さらに通常の仕事までもこなしていく。

 さらに、羅幻王と宰相ルクスは必死に他国に売り込み攻勢をかける準備を、これまた仕事と同時並行して開始していた。

 

 国家の全ては、無畏の一機に掛けられていたのである。ただ、ギャグをするためと、資金の余裕を造り出す、その為だけに。

 

「時間は後……ぎりぎり、か」

「それでもなんとかするしかないデショ? ウチは技術立国なのよ? その誇りにかけて、たった一機の兵器に賭ける……スゴいことよ、コレ。さあ、ウチの根性を、みせてあげましょう?」

 

 普段ギャグばかりで外道なはずのかちゅーしゃ前摂政が、針千本に笑う。それはギャグを人生として真剣にやっている者がほんの少しだけかいま見せた、真剣な男の笑顔だった。

 
 
 
 
 

 その頃、現場では、悲鳴や怒号が飛び交っていた。

 

「くそー、なんでこんなにめちゃくちゃー!? これじゃすぐ爆発するー!」

 

 技族のトップエースである茉乃瀬桔梗がぎりぎりぎりとスパナを手にして歯ぎしりを上げる。彼女からすればもっともな事であったのかもしれない。

 

「やかましい! そこはだな、装甲の薄さを補うための……」

 

 そしてすでに無畏は手が足りない為に柱に縛られてわめくだけ。そんな技族全員の努力の結果、時間内に調整と言う名の大改造は終了した。その中でも特にぱんくすの働きは目覚しく、普段はもっぱら建築に従事しているとは思えない働きぶりであった。

 
 
 
 
 

「さ、これで大丈夫なはずだ。パイロットの諸君もう一頑張りテストをしてくれ!」

 

  日もすっかり沈んだ頃にようやく茉乃瀬桔梗の声が上がった。そして、テストパイロットとして抜擢されたシノブが乗り込み、周囲の期待と、不安を乗せて、ゆっくりと二つのローターが廻る。その緊張感と言ったら、その場に居る総ての者を静寂へと巻き込み、ごくりと唾を呑み込む音さえもはばかられるようでもあった。

 

「がんばれ、まずは飛ぶ事からなんだ…!」

 

 がんばれ、がんばれ、がんばれ。小さく小さく、誰かの声が響き渡った。だが、それはやがて少年から大人まで、只一つの言葉が次々に響き、只一つの言葉の流れになり、そして只一つの願いが籠った、叫びとなった。

 

 すなわち――『飛べ』と。

 

「頑張れ! 僕たちの誇りを乗せて! 未来を乗せて! 頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!!」

「行け! 俺達の未来はお前に掛かってるんだ!」

「がんばって! お願い! 飛んで!!」

「いけ! 行くんだ! 飛んでくれ!!」

「さあ、飛ぶのヨ! 貴方の翼は、そのためにあるんだから!」

 

 茉乃瀬桔梗が叫び、ぱんくすも叫ぶ。比月コウが願いを込めて手を合わせ、針千本も叫び、かちゅーしゃ前摂政も叫んだ。

 そして、二つのローターは唸り声と共に、風を纏いゆっくりと浮いて、空へと飛び立つ。その瞬間、大きな歓声が、世界を包んだかのように響き渡った。

 
 
 
 
 

 そうして、皆が感動の余韻に浸っているその時、格納庫の奥からすさまじい叫び声があがった。

 

「よし、できたーー!!」

 

 なんだなんだとその場にいたほぼ全員が格納庫に戻って中を見ると、柱に縛られたままの無畏が異常に嬉しそうな顔で笑っている。彼の足元には複雑怪奇な模様とでもいうべき図面――どうやら無畏は縛られたまま、器用に足で書いたようである。

 

「な、何が出来たんですか?」

 

 羅幻王が恐る恐ると聞くと、無畏はよくぞ聞いてくれた、と声を大にして叫ぶ。

 

「うむ、さっきのヘリなど比べ物にならんほどの大発明をしたのだ!」

「おぉ! それはすごい!?」

「うむ、まぁ、製造費がざっと……50億くらいかかるがたいした問題では無いな」

「…………さ、片付けを始めましょうか。」

 

 値段を聞いて固まっていた人々がその羅幻王の言葉で我に返り、それぞれの持ち場を片付けに散っていった。

 

「おぃ! 我輩の話をちゃんと聞いていけ! 決して50億でも高くないんじゃーーーー!」

 

 ほとんど人のいなくなった格納庫の隅で無畏は柱に縛られたまま叫び続けた。

 
 
 
 
 

 どっとはらい。

 

 

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Last-modified: 2017-06-19 (月) 21:09:59 (32d)