海に面した砂漠の国である、羅幻王国において、宿敵とも呼べるものが存在する。
もちろん、何とかオーマだとかも存在するが、それはどちらかというと国家的・軍事的な外敵であろう。
だが、ここで述べる『宿敵』とは……
―――神。
ふざけるなとか言われそうであるが、あながち間違いではない。
尤も『自然』と言い換えた方が分かり易いというかむしろそう言え、ややこしい。
照りつける太陽、風に舞う砂、吹き抜ける潮風。
これらが人類の文明……と言うか建物などの人造物を蝕んでいくのである。
え? なんでまた燃料生産地の話なのにこんな内容なのかって?
それら自然による影響を顕著に受けるのが、人里離れた自然の中に建設される燃料生産地だからなのだ。
燃料生産地建造計画が示された時に羅幻王国の技術者がまず考えたのは、その『環境対策』である。
昨今のエコロジーブームによる環境保全対策もその一つではあるが、もっぱら前述した『過酷環境下における建造物の劣化防止対策』が大きなウエイトを占めている。
さらに、燃料生産地で取り扱われる石油や天然ガスなどの化学物質まで加わるものだから、その問題の困難さは推して量るべし。
しかし羅幻の技術者達は口を揃えてこう言ったと言う。
「……これが逆境か!」
そう、羅幻王国々民は、逆境に陥ると普段の数倍以上の活躍を見せるのである……勿論、普段はさっぱり働いていないと言う訳ではない。ないったらない。
そして、そのハングリー精神(?)によって過酷な自然環境に耐えうる数々の材料や製品が改良・開発されたのである。
ここでは、その中でも建築物に最も使われる材料である『コンクリート』がどのように改良されたか紹介するとしよう。
風力発電と同じような立ち位置として、水力発電施設が上げられる。
これは羅幻王国を流れる用水路を利用したもので、その目的は小型の風力発電施設がそうであるように、末端利用を補うエネルギー源としての面が強い。
市外各部の水道橋は、その内部に簡易な水力発電機構を組み込まれている。
ダムを利用した本格的な水力発電施設のそれと比べれば個々の発電力は微々たる物でしかないが、国中全ての水道橋がそうであるという事実が、半ば力押しに発電量の底上げを図っている。
これらの施設で賄われた電力の多くは市内で消費される分に廻されるが、そうでない場合もある。
そちらの場合代表的なのは工業地区に設置された水道橋のそれだ。
多くの工場では大量の工業用水を必要とするし当然のように同量の排水を必要とする。
殊更I=Dのような大型でありながらかつ精密な製品を製造する工場、その多くは国営の工廠であるのだが、その付近に設置された水道橋では、それ一基で他の区全ての水道橋で発電される電力に匹敵する電力量を発電することが出来る。
そのようにして工業区で発電された電力のうち多くは工業区内で消費されるが、商業区や生活区に廻される場合も少なくない。